鍼灸甲乙経
- yokando2
- 2019年9月21日
- 読了時間: 3分

『鍼灸甲乙経』は、256年頃に、中国の皇甫謐(こうほひつ)によって書かれた鍼灸臨床の古典です。『鍼灸甲乙経』以前には『明堂』という鍼灸臨床の書があったのですが、今は散逸して残っていませんので、この『鍼灸甲乙経』は非常に貴重です。
皇甫謐(215~282年)は西晋の人で、20歳まで放蕩の限りを尽くしましたが、叔母に諭され学問の道に目覚め、百家の思想に通じ、『帝王世紀』や『玄晏春秋』など多くの著作をなし、文学や歴史学に大きな影響を与えました。のちに、風病を患い半身不随となったのをきっかけに医学の道に目覚め、40歳の頃、黄帝内経の『素問』・『霊枢』と『明堂孔穴鍼灸治要』の三書をもとに『鍼灸甲乙経』を書き上げました。西晋の武帝は何度も皇甫謐を招いたのですが、皇甫謐は病気を理由に仕官を断り、在野で勉学に励みました。寝食を忘れて典籍を読みふけって学習するので、世間からは「書淫」と呼ばれていたそうです。
『鍼灸甲乙経』は巻之一から巻之十二まで、全12巻もある大部の書物です。内容は、陰陽五行、気血栄衛、経絡流注などの鍼灸の理論から、経穴の具体的な場所や様々な症状に対する施術法などからなる、指南書であります。
さて、『鍼灸甲乙経』の中を覗いてみましょう。まず、巻之一を覗いてみます。この巻では、主に五臓六腑や気血栄衛について書かれています。こんな具合です。
“肝は血を蔵し、血は魂を宿し、気ありて語り、液ありて涙となる。肝の気が虚すれば恐れ、実すれば怒る・・・心は脉を蔵し、脉は神を宿し、気ありてげっぷし、液ありて汗となる。心の気が虚すれば悲しみ、実すれば笑い止まらず。脾は栄を蔵し、栄は意を宿し、気ありて呑み、液ありて涎となる。脾の気が虚すれば四肢が不自由となり五臓が乱れ、実すればお腹がふくれ排尿排便がうまくいかなくなる。肺は気を蔵し、気は魄を宿し、気ありて呼吸し、液ありて鼻水となる。肺の気が虚すれば呼吸がしずらくなり、実すれば喘鳴し胸が苦しくなる。腎は精を蔵し、精は志を宿し、気ありてあくびし、液ありて唾となる。腎の気が虚すれば手足が冷たくなり、実すればお腹がふくれて五臓が乱れる・・・"
理論ばかりではありません。痛みやしびれ、発熱、咳嗽などの様々な症状に対する具体的取穴法や施術法についても実に細やかに書かかれています。例えば婦人科疾患や子供の病気については、巻之十二に詳しく書かれていています。こんな具合です。
“女子が病となり、下腹部が張れ、子宮が脱して痛み、月経になれば生殖器が腫れ、あるいは痒くなり、青野菜の搾りかすのようなものが流れ出て、月経が止まっても妊娠しているわけでもなく、食欲不振になるのは曲泉を主治穴とする。婦人が病となり、妊娠できなくなったり、いまだに出産を経験できずにいたりする場合は、陰廉を主治穴とする。鍼の刺す深さは8分とし、ツボは鼠経リンパ節の下一寸にある・・・婦人の不妊症には湧泉を主治穴とする。女子の不妊、子宮脱、経血漏れには然谷を主治穴とする。女子の無月経には照海を主治穴とする。婦人の子宮脱、四肢の脱力、煩悶にも照海を主治穴とする。月経が来ず無月経が続き、心下部が痛み、目がぼんやりして遠くが見えないのには水泉を主治穴とする・・・”
いかがですか。1750年も前に、こんなに懇切丁寧な医学書があったとはびっくりですね。
Comments