赤羽幸兵衛
- yokando2
- 2023年10月29日
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精神科医・木村敏は非定型精神病患者の脳波の検査を繰り返しているときに、不思議な事実に気づいた。重篤な精神病状態のときには脳波に乱れはないのに、病状が落ち着くと激しい脳波の異常が出現する。寛解期には脳波に異常を来たしていた患者が再発すると脳波が逆に正常に戻るという、非定型精神病にみられるこの交替現象を、木村敏は「シーソー現象」と名づけた。
実は、鍼灸の世界にも「シーソー現象」というのがある。鍼灸師、赤羽幸兵衛が発見した現象である。彼の妻は右肩甲骨の激痛で夜も眠れないほど苦しんでいたが、ある日、雑用のため左手で仕事をしていたら、一時間くらいで右肩甲痛が夢のように消えてしまったそうである。ナゼだろうと赤羽幸兵衛は考えた。彼の妻は右手のみを使っていたために疲労が右肩甲骨に蓄積して痛みを発していたようだが、その日は日常使ったことのない左腕を急激に使ったため、その疲労が右側と同量に達して疼痛が消えたのではないかと推定した。そこで初めて、「シーソー現象」と命名したという。
赤羽氏は「シーソー現象」を応用して、多数の鍼灸治療を行っている。例えば、オートバイに乗っていた青年が衝突により左膝を強打して、脚の伸展ができず、触れるだけで激痛を感じていのを、赤羽氏が反対側の右膝の同一点へ太い針を一本刺しただけで、患側の足は伸びるようになり、局部は押しても痛くなったのだ。
「1953年早春、40歳ぐらいの婦人が来院。リュウマチ性の手関節炎。左右とも屈伸時に疼痛があり、指先までチアノーゼ。最初、左手関節の背面へ横紋に平行に皮内針を刺入すると、直前までのチアノーゼが見る見る淡紅色に変わりつつ指先の方へ走っていくのが見えた。患者の痛みは取れ屈伸も自由になった。そこで絆創膏で固定した。次に右の・・・」
赤羽幸兵衛(1895~1983年)は自分の発明した皮内針法の奇跡的ともいえるこの著効に驚き、「これは一体どうしたことか」としばらくの間悩んだという。それから「圧発汗反射」を発見した高木健太郎博士を訪ね、そこで自分の「皮内針法」の効果を実証すべく数々の実験を行った。
「圧発汗反射」とは、側臥位で寝ていると下側よりも上側に発汗が多くなる現象であるが、また体温の方も上側の方が下側よりも0.5度ほど高くなる。赤羽幸兵衛は、上側の腋窩の下方に皮内針か皮下針を刺して固定する実験をした。すると、皮下針ではなんら変化がなかったにもかかわらず、皮内針では針を固定した直後から上側の体温が下がり始め数分後には下側と同じ温度になった。そして、この効果は皮内針を固定したままにしておくと2日間は続き、3日目からやや効果がうすれ、一週間後には効果がなくなった。
したがって、針の刺す深さは皮膚の真皮までで、皮下まで深く刺してはならず、また皮内に針を刺しておく期間は2~3日が妥当である、ということになる。赤羽幸兵衛は実験を繰り返しながら、その間、多数の臨床に応用し、頸筋と肩のコリ、五十肩、肋間神経痛、腰痛、坐骨神経痛、膝と足の関節痛、胃腸病、肝臓病、喘息、婦人病、無痛分娩、月経痛、痔疾、打撲、火傷など、様々な疾患で著効を得ている。
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