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素問(中)

  • yokando2
  • 2023年7月29日
  • 読了時間: 21分

素問・通評虚実論篇第二十八


茶の湯の茶室は四畳半の簡素で虚ろな空間です。

そこには静寂があり、生命があり、永遠があります。

藁葺きの屋根、軽めの竹の支柱、細い柱、非対称な床の間。

茶室の不完全さは、客めいめいの想像力で完全なものとなります。


虚は精気(=正気=真気)が不足した状態、実は邪気が盛んな状態です。

本篇では、さまざまな疾患の虚実や予後について詳述されています。


例えば、

・下痢に血が混じっているとき、身体が冷えていると治るが、熱いと予後不良。

・癲癇は、脈が大・滑であれば治るが、小さく堅く急であれば予後不良。

・糖尿病は、脈が実・大であれば治るが、うつろで小さく堅いと予後不良。

・乳児が発熱したときは、手足が暖かければ治るが、冷たいと予後不良。

・乳児が喘鳴し肩で息をするときは、脈が穏やかであれば治るが、急だと予後不良。


-邪気盛んなれば則ち実なり、精気奪わるれば則ち虚なり。



素問・太陰陽明論篇第二十九


三陰経は全て足から上行して胸腹か頭に至り、下行して指先に至ります。

三陽経は全て手から上行して頭に至り、下行して足の末端に至ります。

足の太陰脾経が三陰を束ね、足の陽明胃経が三陽を栄養します。

脾は東西南北の中心であり、胃は飲食物から水穀の精気を吸入します。

脾は水穀の精気を胃から受けて、四肢や肝心肺腎に送り込んでいます。

脾胃が障害されると、手足が不自由になったり、さまざまな病が発生します。


-脾臓は常に胃土の精を著むるなり。土は万物を生じて天地に法る。



素問・陽明脈解篇第三十


フランス語は愛を囁くことば

ドイツ語は馬と話すことば

イタリア語は歌を歌うことば

ロシア語は詩を詠じることば

スペイン語は神と語ることば

といわれています。


東洋医学には肝、心、脾、肺、腎の五臓に対応して、

角(強く鋭い発音、カキクケコ)

徴(胸から出る激しい発音、ラリルレロ、ナニヌネノ)

宮(中庸の音階、アイウエオ)

商(清く冴えて悲哀を含む発音、サシスセソ)

羽(弱弱しい力のない発音、ハヒフヘホ、マミムメモ)

の五声があります。

フランス語は徴、ドイツ語は角、イタリア語は宮、ロシア語は商、スペイン語は羽といったところでしょうか。


篇第三十の話題は足の陽明胃経の病についてだけです。

胃経の病には以下のようなものがあります:

・人と火を憎む。

・鐘の音には動じないが木の音には驚く。

・衣を脱いで走る。

・高い木に登って歌を歌う。

・数日間食事を摂らない。

・垣根を飛び越えて屋根に上る。


この篇では、これらの病の起こる機序について解説されています。


-厥逆して臓に連なれば則ち死し、経に連なれば則ち生く。



素問・熱論篇第三十一


傷寒病という発熱を伴うインフルエンザなどの病気では、

発病後6~7日で死亡する場合と10日以上で治る場合があり、

その病状の経過について、典型的な例が示されています。


10日以上で治る場合:

一日目は、太陽膀胱経の風門穴に風邪が入り、頭項や腰背が強張る。

二日目は、陽明胃経が病を受け、発熱し目が痛み鼻が乾き寝れなくなる。

三日目は、少陽胆経が病を受け、胸や脇が痛んで耳が聞こえなくなる。

四日目は、太陰脾経が病を受け、腹が詰まりのどが渇く。

五日目は、少陰腎経が病を受け、口がからからになり水を欲しがる。

六日目は、厥陰肝経が病を受け、胸が苦しくなり陰嚢が縮みあがる。

七日目以降は太陽経、陽明経、少陽経、太陰経、少陰経、厥陰経の順に、

病邪が衰えていき、十二日目に病から開放されます。

ただし、発熱中に無理に食事を摂ると、熱が下がった後にぶり返します。


六日で死亡する場合:

一日目は、太陽膀胱経と少陰腎経が同時に病み、頭痛がし、口が渇き、胸が詰まる。

二日目は、陽明胃経と太陰脾経が同時に病み、腹が張り、発熱し、食欲がなくなり、うわごとを言う。

三日目は、少陽胆経と厥陰肝経が同時に病み、耳が聞こえなくなり、陰嚢が縮みあがり、手足が冷たくなる。

このあと、飲み物がのどを通らなくなり人事不省となり、胃の気によって3日間はもちこたえますが、胃の気の消滅する六日目には死亡します。


-その未だ三日に満たざるは、汗していゆべし。

-その三日に満つるは、泄していゆべし。



素問・刺熱篇第三十二


昨日、建仁寺の暁天坐禅の会に参加しました。

坐禅では、調身、調息、調心の3つの手順を踏みます。

調身では、結跏趺坐で法界定印の手を組み、半眼にして1m前方を視ます。

調息とは呼吸を整えることで、例の白隠の腹式呼吸でよいのです。

調心とは心を整えることですが、ひとつ、ふたつと数を数えるだけでOKです。


さて、

この篇では、熱病を肝熱、心熱、脾熱、肺熱、腎熱の5つに分類し、

それぞれの熱病の症状と治療法について詳しく説明されています。

簡便な診断法と刺法についても、以下のように言及されています。


肝熱:左頬が赤くなる。第5脊椎の下を刺せ。

心熱:額が赤くなる。第4脊椎の下を刺せ。

脾熱:鼻が赤くなる。第6脊椎の下を刺せ。

肺熱:右頬が赤くなる。第3脊椎の下を刺せ。

腎熱:頤が赤くなる。第7脊椎の下を刺せ。


また、留意点は以下のとおり:

・冷たい水を与えてから鍼治療をする

・薄着をさせて涼しい所に住まわせる


-病未だ発せざると雖も、赤色を見わす者はこれを刺す。名づけて未病を治すと曰う。



素問・評熱病論篇第三十三


この篇では、陰陽交、風厥、労風、風水の4種の熱病について語られます。

熱を邪気と精気の闘いととらえ、精気が勝てば病が治るとしています。


-虚はまさに刺すべからず。


昨夜、大阪でサイモン&ガーファンクルのコンサートがありました。二人はともに67歳。私たちの世代は、映画「卒業」のバックに流れる曲々で彼らを知ります。ダスティン・ホフマン演じる主人公が、恋人役のキャサリン・ロスを捜して、バークリー校の花園をさまようシーンで流れる「スカボロウ・フェアー」。

Are you going to Scarborough Fair? ...



素問・逆調論篇第三十四


陰陽の不調和や気の逆行による様々な疾病について語られます。

そのなかで、興味深いのは次の一節です。


-栄気虚せば則ち不仁たり、衛気虚せば則ち不用たり。


ここの部分を『異釈黄帝内経素問』では、


「栄気が虚しますと知覚麻痺をおこします。

衛気が虚しますと運動麻痺をおこします。」


と訳しています。すなわち、西洋医学的に見れば、栄気は上行性神経、衛気は下行性神経を走行しているということなのです。


ところで、昨夜、祇園祭の宵宵宵山をゆっくり歩いてきました。

それぞれの鉾で趣向を凝らした日本手拭や「ちまき」が売られています。

ある鉾で「ちまき」を買って、葉っぱを剥いでさっそく食べようとすると、

中に餅はなく、藁が数本。なんと祇園祭の「ちまき」は厄除けなのです。



素問・瘧論篇第三十五


昨日の米国オールスター戦で、イチローが大統領からサインをもらい、感激していましたが、彼が喜べば喜ぶほどなぜか悲しくなります。やはり、WBCで大リーガーにサインを求めようとした後輩選手を、たしなめていたイチローの方が好感がもてますね。


瘧とは、和名で「おこり」、西洋医学ではマラリアなどに該当し、

激しい悪寒と発熱の発作を繰り返すものです。


本篇では、この瘧の原因、病理、症状、治法について語られます。

そのなかでも興味深いのは次の一節です。


-其の盛んなる時に方りては必ず毀たる、其の衰うるに因るや事必ず大いに昌ん。


すなわち、邪気が盛んなときに治療すると正気を損なうことになるが、

邪気が衰退したときに治療すると効果が得られる、としているのです。

瘧では外邪がヒトの衛気とぶつかって発作が起こりますが、しばらくは、

衛気のもつ免疫力に任せ、病状が落ち着いてから治療すればいいのです。



素問・刺瘧篇第三十六


一昨日の月は半月で、深夜に東の空から出てきました。月は1週間で半円分翳りが進み、天空上を約90度進みますから、一週間後の7月22日には新月となり、明け方に東の空から出てきます。そして、数時間後には、ちょうど太陽の前面に出てその光を遮るはずです。


さて、

瘧の治療には、鍼による瀉血がしばしば用いられます。この篇では、委中、衝陽、廉泉、懸鍾、井穴、十指間、さらに、五つの兪穴(魄戸、神堂、魂門、意舍、志室)

などが邪血を出す有効なツボとして、紹介されています。


-瘧発して身まさに熱すれば足背の動脈を刺す。その空を開きその血を出せば立ちどころに寒ゆ。



素問・気厥論篇第三十七


一昨日、親戚から無農薬のトマトやネギなどの野菜が届きました。形はいびつで、虫食いの跡も多いのですが、ひとたび口に含むと、その野菜が育った土地の匂いとエネルギーが一気に六腑に流れ込みます。スーパーのきれいで清潔なだけで個性のない薄味の野菜とは違い、トマトもネギも育った土地の太陽と水と土の味を強烈に主張しています。昔、田舎で食した真っ赤な完熟トマトの甘さやネギの苦味が戻ってきます。


さて、

寒熱の病では、邪気が五臓六腑を次々と伝播していきます。

寒邪は、まず腎に入り、脾、肝、心、肺と進み、腎に戻ります。

熱邪は、まず脾に入り、肝、心、肺、腎と進み、脾に戻ります。

胞に入った熱邪は、膀胱、小腸、大腸、胃、胆、脳へと進みます。


素問は黄帝が問て岐伯が答える形式がほとんどで、本篇も同様です。

本篇を白文で示すと、以下のように始まっています:


-黄帝問曰五蔵六府寒熱相移者何。岐伯曰腎移寒於肝癰腫少気。・・・



素問・咳論篇第三十八


16日、北海道トムラウシ山でツアー客等8人が死亡する事故が起きました。

夏とはいえ北海道の2000m級の山、気象急変の怖さを思い知らされます。

当時、稜線では雨が降り始め、強風が吹き荒れていたといいます。

東洋医学でいう病気の外因には風・寒・暑・湿・燥・火の六淫がありますが、

今回は、夏の暑邪で高齢者の心の臓が弱っているときに、

雨と風によって湿邪と風邪が入り、脾と肝の臓が侵され、

最後に強風による体温低下で寒邪が腎の臓に侵入して、

精気が枯渇してしまい、死に至ったと推定されます。


さて、

咳は肺の病と考えられますが、素問では五臓六腑の病と考えます。

五臓六腑の海である胃にその邪気が集まり、五臓六腑の蓋である肺に影響

を与えて、鼻汁や唾液が増え、顔面がむくみ、咳が出るようになります。


咳の治療法は以下のとおりです:


-臓の治はその兪を治し、腑の治はその合を治し、浮腫はその経を治す。



素問・挙痛論篇第三十九


本篇では様々な痛みについて語られていますが、基本的には、

痛みは寒邪が脈中に入り気が停滞し血が不足するために起こります。

従って、痛みを治めるには熱気を集めればよい、と説かれています。


さらに本篇では、「百病は気より生ずる」として、9例を挙げています。


-怒れば則ち気上る。

-喜べば則ち気緩む。

-悲しめば則ち気消える。

-恐れば則ち気下る。

-寒ければ則ち気收まる。

-炅ければ則ち気泄れる。

-驚けば則ち気乱れる。

-労すれば則ち気耗す。

-思えば則ち気結ぼれる。


昨日(19日)は土用の丑の日で、全国的には鰻を食べる習慣がありますが、ここ京都右京区三宝寺では、中風、頭痛の防止に焙烙灸が行われました。呪文を書いた焙烙(ほうろく)を頭にのせ、もぐさを置いて火をつけて、木剣にて九字を切り、悪邪霊を追い払うという、日蓮宗の祈祷です。確かに、頭の灸は、脳卒中や頭痛に良く効きますので、昔は直にお灸をすえていたのではないかと思われます。



素問・腹中論篇第四十


本篇では様々なお腹の病とその治療法について語られています。


お腹が張る病には、鶏屎を煮沸して飲ませると効果があります。

ただし、治りかけのときに食事を摂りすぎると再発します。


胸脇が張る病には、イカの甲と茜草で作った丸薬を飲ませます。


下腹にシコリのできる病は、不治の病で、按ずると死に至ります。


多飲多食の病には、芳草や石薬を飲ませることは禁忌であり、

無理に飲ませると、精神錯乱や癲癇発作の副作用があります。


気が上に衝きあげる病では、発作時にはお灸や鍼は禁忌であり、

無理に治療しますと、声が出なくなったり、気が狂ったりします。


-肓の原は臍下にあり。



素問・刺腰痛篇第四十一


本篇では様々な腰痛とそれを治療する経絡やツボについて語られます。

治療法の瀉血では、最初の黒い血が赤くなるまで血を出せ、とあります。

また、左側の痛みには右側、右側の痛みには左側を取穴せよ、とあります。


・痛みが背中から上行し首筋が強ばるときは、足太陽経の委中を瀉血。

・腰痛時に寒気がするときは、足の太陽経や陽明経を刺せ。

・腰痛時に熱が出るときは、足の厥陰経や少陰経を刺せ。

・前後に屈伸できないときは、足の少陽経や太陽経を刺せ。

・左右にひねれないときは、足の陽明経や少陽経を刺せ。

・痛みが背骨の内側に響くときは、足の少陰経を刺せ。

・痛みが下腹と横腹に響くときは、腰臀部の八髎穴を刺せ。


-鍼を発すれば立ちどころに已ゆ。


往療ではお年寄りが多いのですが、貴重な話が沢山聞けます。

戦前や戦時中、戦後の復興期など、昭和の生き証人の話が直に聞けます。

戦前は健康保険がなく貧しい人からお金がもらえない貧乏医者の娘、

四川省で敵の焼夷弾を受け即死の部下6人の下敷きで生き残った隊長、

呉の海軍工廠で8月6日を迎え翌日広島市をさまよった少年、

水俣病が発覚する前に元凶のニッチツで二組問題で悩んだ労働組合員、

などなど。

昨日もこんな話が聞けました。

「戦前は救急病院がないから往診を頼むとね、人力車で医者がやって来るんです。そしたら、玄関先で車夫がベルを鳴らして知らせるんですわ。」

「ペルー沖地震の津波が来るというので浜辺に立っていたんですよ。そしたら、じわっと深くなってきて立てなくなって、慌てて岸まで逃げました。」

「DDTかけられました。櫛で髪をすくとシラミの卵が沢山くっついてたわ。海人草飲んだら長い回虫が出てきてねえ。あんなに長いの嫌だったわ。」



素問・風論篇第四十二


本編では様々な風病について語られます。

寒熱、熱中、寒中、癘風、偏風、肝風、心風、脾風、肺風、腎風、

脳風、目風、漏風、内風、首風、腸風、泄風、胃風、以上18種。

風は百病の長といわれ、風の持つ動きやすい性質により、

風邪に犯されると、いろいろな病が誘発されるのです。


癘風、今のハンセン病については、次のように説明されています:

風邪が太陽経の背部兪穴から各経脈に流れ込み、肌肉の間に広がり、

そこで衛気と出合って闘い、流通が障害されて腫脹や麻痺が起こります。

甚だしいときは、栄気が熱を持つために、肌肉が腐敗し、鼻柱が崩れ、

色が変化し、潰瘍を生じます。


-風は百病の長なり。その変化するに至りて乃ち他病となる。



素問・痺論篇第四十三


風気と寒気と湿気が一緒になって侵入しますと、痺(しびれ)を起します。

特に風気が強いときは、移行性の行痺となり、

特に寒気が強いときは、疼痛性の痛痺となり、

特に湿気が強いときは、沈着性の着痺となります。


冬にこの病を得たものを骨痺といい、放っておくと腎に宿ります。

春にこの病を得たものを筋痺といい、放っておくと肝に宿ります。

夏にこの病を得たものを脈痺といい、放っておくと心に宿ります。

梅雨にこの病を得たものを肌痺といい、放っておくと脾に宿ります。

秋にこの病を得たものを皮痺といい、放っておくと肺に宿ります。


痺病の予後は、

五臓を直撃しますと死亡し、

筋と骨の間に留まると痛みがひどく、

皮膚の間に留まっていると治りやすいのです。


痺病に対しては、

五臓の痺には兪穴を取り、

六腑の痺には合穴を取り、

経脈での過・不足の状態を調和させますと、病は癒えます。


また、栄気と衛気は熱気が強いので、風・寒・湿の邪気がこれら自体を病ませることはありません。従って、栄気と衛気の痺病はありません。


-栄は水穀の精気なり。五蔵を和調し、六府を灑陳し、乃ち能く脈に入るなり。故に脈に循いて上下し、五蔵を貫き、六府を絡うなり。

-衛は水穀の悍気なり。其の気、慓疾滑利にして、脈に入ること能わざるなり。故に皮膚の中、分肉の間に循いて、肓膜を熏じ、胸腹に散ず。



素問・痿論篇第四十四


禅寺の幡が風でバタバタ揺れるのを見て、一人の僧は「幡が動くのだ」と言い、他の僧は「風が動くのだ」と言い、それを見ていた六祖慧能は「あなた方の心が動くのです」と言いました。この話を聞いて、無門は「風が動くのでも、幡が動くのでも、ましてや心が動くのでもない」と語ります。鍼の妙同様、まこと、禅の悟りは捉えどころがありません。


さて、痿(なえること)の病には以下の5種類があります。

肺に熱をもつと、皮毛の張りがなくなり痿躄となり、手足がなえます。

心に熱をもつと、血が上にのぼり脈痿となり、膝や足がガクガクします。

肝に熱をもつと、胆汁が押し上げられて筋痿となり、筋が引きつります。

脾に熱をもつと、胃が乾いて肉痿となり、肌肉の働きが麻痺します。

腎に熱をもつと、骨髄が消耗し骨痿となり、腰や背中が曲がります。


痿病に対しては、陽明経を主に取穴します。

足陽明胃経は五臓六腑の海といわれ、関節の働きを司る宗筋を潤します。

衝脈は十二経脈の海といわれ、肉と骨の接合部を潤します。

足陽明胃経は衝脈と氣衝で合流し、帯脈や督脈に連絡しています。

従って、陽明経を治療しますと、宗筋や帯脈の緩みを改善できるのです。


-各々其の栄を補い、其の兪を通じ、其の虚実を調え、其の逆順を和す。



素問・厥論篇第四十五


気が逆行して生ずる病を厥といいます。

陽気が下方で衰えると寒厥、陰気が下方で衰えると熱厥となります。

寒厥は房事過多により起こり、足先から膝まで冷えてきます。

熱厥は飲酒過多により起こり、足の裏に熱を持つようになります。

厥では下腹が膨れたり、半日または一日人事不省になることがあり、

三陰全てが厥になると死亡します。


厥の治法は以下のとおり:


-盛んなれば則ち之を写し、虚なれば則ち之を補す。盛んならず虚ならざれば、経を以って之を取る。


鍼灸医学のオリジナリティはどこにあるかというと、つくづく思うに、陰陽はゾロアスター教の善:アフラマズダと悪:アーリマンの二元論、五行はギリシアのターレスの四元素説やバビロニアの五芒星に影響を受けたという説があり、また天人合一もあまりにも観念的であり、やはり、莫大な臨床経験から発見された「虚実の補瀉」と「経絡の流注」にこそ、鍼灸の独自性があるのではないかと思います(気の概念はさておき)。従って、上記の「盛則写之、虚則補之。不盛不虚、以経取之。」の一文に、鍼灸のエキスが凝縮されているような気がします。



素問・病態論篇第四十六


本篇では、胃や首の腫瘍、不眠症、精神錯乱、腰痛などの病態について語られていますが、診断における経絡の流注の重要さが分かります。


例えば、胃経の流注上にある人迎の脈が盛んであるのは、胃の気の逆上で熱気が胃口から発散できないためで、胃に腫瘍が発生する、としています。


また、冬に右脈が沈緊で左脈が浮遅であるのは、右脈は冬の腎脈で正常だが、左脈は秋の肺脈で季節の脈ではないので、病は左側の腰に出ます。これは、腎経の流注が腎臓を貫いて肺を絡っており、左に肺脈を得たのは左の腎気が不足したためで、左の腎兪のある腰が痛む、としています。


-夫れ癰にして気の息する者は宜しく鍼を以って開除し之を去る。夫れ気盛んにして血聚る者は宜しく石もて之を写す。此れ所謂る同病異治なり。


昨日、大阪医科大学で第45回東洋医学とペインクリニック研究会が開かれました。教育講演では、森之宮医療大学松熊秀明先生が、関節リウマチに対するお灸の有効性をラットを使った実験で実証された話をされました。お灸は、関節炎の急性期には白血球を増殖させて菌との闘いを助け、慢性期にはT細胞や好中球の機能を抑制して炎症を抑えるとのことです。今回は、お灸の効果を血液成分の変動で実証されましたが、嬉しいことに、若い研究者にはサイトカインによる解明が将来の課題として残されました。



素問・奇病論篇第四十七


本篇では、尋常の病ではない奇病のいくつかについて語られています。

瘖、息積、伏梁、疹筋、厥逆、脾疸、胆疸、厥、胎病、腎風などです。


最初の「瘖」は、妊娠9ヶ月目で声が出なくなる病気で、発生の機序は、子宮の絡脈が腎に連なり、腎経の流注が舌根に連なっているため、妊娠で子宮の絡脈が通じなくなると声が出なくなる、と説明されています。治法は簡単で、放っておくこと。分娩後には自然と治るそうです。そこで以下の教訓が示されます。


-不足を損じ、有余を益し、以って其の疹を成すことなかれ。


また、脾疸は現在の糖尿病のことで、美食の結果肥満となり、体内に熱を生じ、いくら水を飲んでも飲み足らなくなる病だと説明されています。治法は蘭草を煎じて服用するだけですから、試してみてはいかがでしょう。



素問・大奇論篇第四十八


本篇では、様々な脈象からの病気の機序と予後を推定しています。例えば、

「脈が訪問客のように遠慮がちに打つと、腎の精気が不足しているので、

棗の花が散る初夏に死亡します。」

といった具合です。


閑話休題。

勤め先の病院に味覚障害の患者さんがみえられました。

果たして鍼灸で治すことができるのでしょうか。

味覚障害の原因で一番多いのが薬剤性(21.7%)。

次に亜鉛の欠乏(15.0%)。3番目が原因不明の特発性(14.5%)。

この特発性の味覚障害には鍼灸が有効なのです。


現代鍼灸では、味覚を伝える顔面神経、舌咽神経、迷走神経の3神経の

通り道である翳風に鍼通電します。


経絡治療では、脾と心が虚し、肝と胆が実している、という証をたてて、

大陵と太白を補う鍼をし、行間と臨泣を瀉す鍼をします。


中医弁証では、肝気鬱滞、心血虚、湿熱中阻、脾気虚などの証をたてます。

例えば、脾気虚の治療では公孫、足三里、氣海、養老、翳風を取穴します。

公孫は脾気を補い、足三里は胃気を補い、氣海は真気を補います。

養老で小腸の分別作用を高め、翳風で舌周辺の経気を巡らします。



素問・脈解篇第四十九


太陽膀胱経の司る月は1月で、陰気の中に陽気が広がり始める時期です。

少陽胆経の司る月は9月で、陽気が減衰し陰気が盛大になる時期です。

陽明胃経の司る月は5月で、陽気が極まって陰気が生まれる時期です。

太陰脾経の司る月は11月で、陰気が極まって陽気が生まれる時期です。

少陰腎経の司る月は10月(7月か?)で、陽気が衰える始める時期です。

厥陰肝経の司る月は3月で、陰気が減衰し陽気が盛大になる時期です。


この篇では三陰三陽の気の盛衰から病の機序が解説されています。


大阪医大鍼灸部の河内明先生は、腰痛で来院される患者さんのお腹を、次指、中指、環指の三指で軽く撫でたり押さえたりしながら診断されます。この腹診から、肝虚による胸脇苦満か、脾腎虚による胃内停水か、脾虚肝実による瘀血か、腎虚による小腹虚軟かを判断して治療されます。「腹は心の奥座敷」とは先生発明の名言であります。



素問・刺要論篇第五十


梅雨時にはネムノキのピンク色の花が雨空に鮮やかに映えます。

梅雨が明けるとサルスベリのピンクの花が暑気を払ってくれます。

洋漢堂のある団地の周辺ではサルスベリがピンクに色づいています。

関西では梅雨明け宣言はまだですが、木々はとっくに夏を感じています。


-病に浮沈あり、刺に浅深あり。


本篇では、鍼の刺入時の注意点について語られています。

病が体毛や毛穴にあるときは、その下の皮膚を損傷してはいけません。

皮膚を傷つけると、肺に影響し、秋になって悪寒や戦慄が起きます。

病が皮膚にあるときは、その下の肉を損傷してはいけません。

肉を傷つけると、脾に影響し、土用になって腹が張り食欲がなくなります。

病が肉にあるときは、その下の脈を損傷してはいけません。

脈を傷つけると、心に影響し、夏になって心痛が発生します。

病が脈にあるときは、その下の関節を損傷してはいけません。

関節を傷つけると、肝に影響し、春になって筋肉が弛緩します。

病が関節にあるときは、その下の骨を損傷してはいけません。

骨を傷つけると、腎に影響し、冬になって浮腫や腰痛を起こします。

病が骨にあるときは、その下の髄を損傷してはいけません。

髄を傷つけると、身体が麻痺し歩行困難となります。



素問・刺斉論篇第五十一


前篇では、鍼を病の部位より深く刺してはいけないと述べられていますが、本篇では、深刺しはもちろん、浅すぎてもダメだと説かれています。


-刺骨者無傷筋。刺筋者無傷肉。刺肉者無傷脈。刺脈者無傷皮。刺皮者無傷肉。刺肉者無傷筋。刺筋者無傷骨。


日本では、鍼灸が補完医療の筆頭に挙げられていますが、イギリス、アメリカ、中国、韓国などでは、補完医療の補完が取れていて、西洋医学に匹敵するものとして、立派に医療として成り立っています。日本が半日3年間の短い教育期間で免許取得が可能であるのに対し、これらの国々では6年以上の充実した教育が行われています。

日本における鍼灸の保険治療が医師の同意なく同一病名でも可能となり、立派に医療としてひとり立ちできるようになることが理想ではありますが、それには教育制度の改革が不可欠であり、徒弟制度みたいにして発展してきた技能重視の日本の鍼灸にとって、多くの課題が山積しています。



素問・刺禁論篇第五十二


鍼を刺してはいけない部位は、まず、肝・肺・心・腎・脾の五臓に膀胱と胆嚢。

気胸を起こす危険のある場所として鎖骨上窩、胸、脇。動脈を刺すと出血多量となり、静脈を刺して出血しないと血腫ができます。その他に、目の玉、脳、脊髄、乳房、関節包などがあげられています。


鍼を刺してはいけない人は、酔っ払い、激怒している人、疲労困憊している人、満腹の人、飢餓状態の人、のどの渇いている人、ショックを受けている人です。


-肝は左に生じ、肺は右を蔵し、心は表を部し、腎は裏を治し、脾は之が使たり、胃は之が市たり。


骨粗鬆症の予防には、カルシウムやビタミンの摂取が重要なのですが、それにも増して重要なのが地球の重力の下での運動なのです。無重力の宇宙空間に長期滞在された若田光一さんは、宇宙船の中で、毎日2時間のトレーニイングを行ったそうですが、筋力の低下はいくぶん防げたものの、骨量の減少はどうしようもありませんでした。骨量が通常値に戻るには、宇宙滞在期間のほぼ倍の日数がかかります。



素問・刺志論篇第五十三


気が充実すれば肉体も充実し、気が虚衰すれば肉体も虚衰します。

これに反する状態は異常です。具体的には以下のものがあります。


気が盛んで悪寒するのは、寒に傷られたためです。

気が虚して発熱するのは、暑に傷られたためです。

食欲旺盛で気が少ないのは、出血し下半身が湿に犯されたためです。

食欲不振で気が多いのは、邪気が胃と肺に入ったためです。

脈が小で血色が良いのは、水邪が溜まり熱に中てられたためです。

脈が大で血色が悪いのは、風邪が入り水分が摂れなくなったためです。


-気実する者は熱なり。気虚する者は寒なり。

-実に入る者は左手もて鍼空を開く。虚に入る者は左手もて鍼空を閉じる。


喫茶店でランチを前に赤子を抱いた娘が父親にこう話していました。

「お父さん、生野菜とスープとご飯の食べる順番って分かる? 生野菜が先で、次が温かいスープ、最後がご飯・メインディシュだって。植物繊維を消化する酵素は暖かいと働かないので生野菜が最初。お腹の中が暖かいと代謝が進むので、暖かいスープを飲んでからご飯よ。そうすると、新陳代謝がよくなって太らないんだって。」



素問・鍼解篇第五十四


刺鍼の際の留意点がまとめられています。

例えば、


-実を刺してその虚するをまつ。

-虚を刺してその実するをまつ。

-経気すでに至らば慎み守りて失うことなかれ。

-深浅は志にあり。

-志を静にして病人を観、左右を視ることなかれ。

-必ずその神を正す。


携帯電話で母親が遠くに住んでいる娘と話しています。

「うちのね、クーラーが故障したの。だから今は冷房なしなのよ。そしたらね、気がついたらね、肩こりが治っているの。・・・え。夏バテ? お盆に帰っておいでよ。クーラーないから夏バテ治るわよ。」

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