素問(下)
- yokando2
- 2023年7月29日
- 読了時間: 27分
素問・長刺節論篇第五十五
様々な疾患に対する刺鍼の方法が説明されています。
・頭痛がひどいときは、針先が骨に達するまで深く刺すと治る。
・寒熱病を治すには、一刺し、さらにその上下左右に四刺する。
・五臓の病は、背部の兪穴に浅く刺し、瀉血する。
・下腹部が痛み大小便が出ないときは、下腹部、両股、腰椎の間を刺す。
など。
-診家、診せずして、病者の言を聴く。
閑話休題
今は川で泳げなくなったという話をしていたら、老人が語りだしました。
「昔はね、川にカーバイトを投げ込んでね。そしたら、魚が苦しいもんだから皆浮いてくる。夜店でも、電気がないころはカーバイト使っていたね。水をかけてね、出てきたガスに火をつけて灯りにしていたんだ。もう、今は見かけないがね。」
素問・皮部論篇第五十六
鍼灸院で週1回腰痛治療を受けている若い娘さんが先生に語っています。
「ことし、4人いっしょに入ったんだけど、2人はすぐやめちゃった。介護の仕事って結構しんどいの。何々ちゃんと2人がんばってたんだけど、何々ちゃんもぎっくり腰起こしちゃって、もうやめると言っているんよ。」
さて、
本篇では、十二経の絡脈である皮部について語られています。皮膚は、化粧品会社の研究所で皮膚の研究をされている傳田光洋氏が、「第三の脳」と呼んでいるほど重要な臓器であります。
-邪、皮に客すれば、則ちそう理開き、開けば則ち邪入りて絡脈に客す。絡脈満つれば則ち経脈に注す。経脈満つれば則ち入りて府蔵に舍するなり。
素問・経絡論篇第五十七
厥論篇第四十五のところで洋漢堂が述べた直感は確信に変わりました。昭和の鍼灸復興の立役者である柳谷素霊が発見した経絡治療家、八木下勝之助(1854~1946年)翁は、12歳のときから90歳で亡くなるまで、本郷正豊編纂の「鍼灸重宝記」一冊のみを、暇あるごとに読み続け、それを臨床に反映し、多くの患者を救ったといいます。その翁が、頼まれた講演でひとこと、こう言って壇を降りたそうです:
「十二経以外に病はない。経絡の虚実を補瀉するだけである。」
さて、
本篇は「経絡論」と題してあるので、経絡について詳細に語られているか、というとそうではなく、経絡の色の変化について論じられているだけです。
五臓の心、肺、肝、脾、腎は、それぞれ、赤、白、青、黄、黒の色であり、
五臓の影響を直接受ける経脈も、それぞれの臓に応じた色になります。
しかし、絡脈の場合には、陰絡はその経に応じた色になるものの、
陽絡は皮膚の表面にあるため四季に応じた色になります。
天の気に寒多ければ気血の流れが滞り青黒くなり、
天の気に熱多ければ気血の流れが円滑になり青赤を現します。
この色調が健康なひとの皮膚の色となるのです。
-経に常色あるも、絡に常なくして変ずるなり。
素問・気穴論篇第五十八
刺禁論篇第五十二に、
-刺して心に中れば一日にして死す。
とあります。
昭和の鍼灸復興の立役者である柳谷素霊と竹山晋一郎は、ともに無類の酒好きで、飲むと必ず鍼の話になったそうですが、ある日、「鍼を刺して臓に当たればどうなるか」という話になり、竹山はこの刺禁論篇を引用して「臓に当たれば死ぬ」と主張し、柳谷は「そんなことはない」と反論して論議が伯仲し、結論が出ず、実際に柳谷が竹山の心臓に鍼を刺すことになったのです。竹山にとっては非常に不利な実験です。負ければ生き恥をさらすし、勝つには自分は死ななければなりません。柳谷は左手を竹山の胸に当て、遠慮もなく7寸の長鍼を打ち込みました。結果は柳谷に軍配があがり、竹山は生き恥をさらすことになったそうです。
さて、素問はこれから佳境に入っていきます。一言一句疎かにできません。本篇では、身体にある合計365の気穴の場所について語られています。ところが、どう数えても365に足りないのです。長い年月にわたって伝えられる間に抜け落ちたものがあるようです。
・五蔵の5兪(井・栄・兪・経・合)左右25穴ずつで計五十穴
・六府の6兪(井・栄・兪・経・合・原)左右36穴ずつで計七十二穴
・熱の兪五十九穴
・水の兪五十七穴
・頭上の五行(督脈と左右の太陽、少陽)に5穴ずつで計二十五穴
・背骨の両傍に各5穴ずつで計十穴
・大椎上の両傍に二穴
・目の瞳の浮白に二穴
・大腿の分中の環跳に二穴
・犢鼻に二穴
・耳中の聴宮に二穴
・眉本に二穴
・完骨に二穴
・項の中央に一穴
・枕骨の竅陰に二穴
・上関に二穴
・大迎に二穴
・下関に二穴
・天柱に二穴
・巨虚の上下廉に計四穴
・曲牙の頬車に二穴
・天突に一穴
・天府に二穴
・天牖に二穴
・扶突に二穴
・天窓に二穴
・肩井に二穴
・関元に一穴
・委陽に二穴
・肩貞に二穴
・瘂門に一穴
・臍に一穴
・胸の6兪(兪府、彧中、神蔵、霊墟、神封、歩廊)左右で計十二穴
・背の兪の膈兪に二穴
・膺の6兪(雲門、中府、周榮、胸郷、天谿、食涜)左右で計十二穴
・分肉の陽輔に二穴
・踝上の横の解谿に二穴
・陰陽の蹻(照海と申脈)に四穴
・寒熱の兪として両膝の陽関に二穴
・大禁穴である五里に二穴
以上、洋漢堂が重複をいとわず数えたところ三百六十穴です。
素問・気府論篇第五十九
本篇では、身体にある365個の脈気の発する経穴について語られています。ところが、どう数えても365よりも多いのです。長い年月にわたって伝えられる間に後人が追加したものもあるようですが、1年の日数365を借りて、実際の数にはこだわらないおおらかさの証でしょう。
・足太陽脈に七十八穴。
・足少陽脈に六十二穴。
・足陽明脈に六十八穴。
・手太陽脈に三十六穴。
・手陽明脈に二十二穴。
・手少陽脈に三十二穴。
・督脈に二十八穴。
・任脈に二十八穴。
・衝脈に二十二穴。
・足少陰脈の舌下に二穴。
・足厥陰脈の毛中に二穴。
・手少陰脈に二穴。
・陰陽蹻脈に四穴。
以上、洋漢堂が重複をいとわず数えたところ三百八十六穴です。
素問・骨空論篇第六十
本篇では、いくつかの代表的な疾患に対する治療方法が語られています。
その他に、任脈、衝脈、督脈の流注や病についても述べられています。
風邪に対する治療法:
・頸項部が痛むときには風府に鍼。
・汗が出るときには譩譆に灸。
・風にあたるのを怖がるときには攅竹に鍼。
・頸項部が強ばって痛むときには巨骨に鍼。
・背が痛くて屈伸できないときには腰陽関に灸。
・横腹と季肋から下腹にかけて痛み腫れがあるときには譩譆に鍼。
・腰が痛み下腹や睾丸が引きつるときには八髎穴や圧痛点に鍼。
・鼠径部が痛み悪寒や発熱があるときには寒府(膝陽関)に鍼。
膝の痛みに対する治療法:
・膝を伸ばせても曲げることができないときには恥骨の下方を治療。
・座ると膝が痛いときには環跳を治療。
・立つと膝に熱を感じるときには膝関節を治療。
・膝の痛みが足の親指に響くときには委中を治療。
・座ると膝が痛み関節内に異物があるように感じるときには承扶を治療。
・膝が痛み屈伸できないときには背部兪穴を治療。
・膝の痛みが脛まで響くときには足三里、通谷、然谷を治療。
・脛がしびれて重だるく立っていられないときには光明を治療。
寒熱病の治療法:
・大椎と長強に年齢の数だけ灸。
・背部兪穴の陥凹部、肩ぐう、京門、懸鍾、侠谿、承山、崑崙、缺盆、
天突、陽池、足三里、衝陽、百会に灸3壮。
・以上の灸で治癒しないときには陽経の兪穴に鍼をして薬物を投与。
-任脈の病たる、男子は内に結して七疝、女子は帯下してか聚たり。
-衝脈の病たる、逆気して裏急たり。
-督脈の病たる、脊強ばりて反折す。
素問・水熱穴論篇第六十一
昨日、どうしても3時間、時間をつぶす必要が生じて、書店で夢枕獏の「陰陽師」を買い、喫茶店に入りました。220円のコーヒーを注文し、やわらかい椅子に腰掛け、1時間ほど「陰陽師」読んだころ、ひとりの女性が、正面のテーブルを片付け、アンプを置き、マイクテストを始めました。しばらくして、中年のおっさんがその右横にドラムを持ち込みました。すると、若者がエレキギターを抱えて、正面左の椅子に腰掛けました。そして、中年のおっさんとジャズっぽい曲を演奏し始めました。それが終わると、先ほどの女性が正面に立って歌い始めました。4~5曲のジャズボーカルを終えると、3人はテーブルで談笑し始めました。私は、思いがけなくもいい時間つぶしができました。
本篇では、水と熱の兪穴について語られています。
水の兪五十七穴:
根である腎と葉である肺がともに病んだ場合の治療穴で、
下肢や腹部の水腫と呼吸器疾患の治療に用いられます。
・腰部の25穴は
脊中、懸樞、命門、腰兪、長強の5穴
大腸兪、小腸兪、膀胱兪、中膂兪、白環兪の左右10穴
胃倉、肓門、志室、胞肓、秩辺の左右10穴
・腹部の32穴は
横骨、大赫、気穴、四満、中注の左右10穴
外陵、大巨、水道、帰来、気衝の左右10穴
三陰交、照海、復溜、交信、築賓、陰谷の左右12穴
熱の兪五十九穴:
・頭部の25穴は逆上した熱気を発散させる効能があります
後頂、百会、前頂、顖会、上星の5穴
五処、承光、通天、絡却、玉枕の左右10穴
頭臨泣、目窓、正営、承霊、脳空の左右10穴
・次の8穴は胸中の鬱熱を取る効能があります
大杼、中府、缺盆、風門の左右8穴
・次の8穴は胃腸の熱を下げる効能があります
氣衝、足三里、上巨虚、下巨虚の左右8穴
・次の8穴は手足の熱を下げる効能があります
雲門、肩髃、委中、横骨の左右8穴
・次の10穴は五臓の熱を下げる効能があります
魄戸、神堂、魂門、意舎、志室の左右10穴
-それ寒盛んなれば則ち熱を生じるなり。
素問・調経論篇第六十二
神が有余すると笑い続けます。
神が不足すると悲しみます。
神有余のときは孫絡の鬱血を瀉血します。
神不足のときは心の経絡上の虚した所を按じて気を至らせ、鍼をして気を通します。
気が有余すると呼吸が荒くなり咳がでます。
気が不足すると息が浅くなります。
気有余のときは肺の経絡を瀉しますが、血や気が泄れないようにします。
気不足のときは肺の経絡を補しますが、気が泄れないようにします。
血が有余すると怒りやすくなります。
血が不足すると恐れやすくなります。
血有余のときは肝の経絡上の盛大になった所を瀉します。
血不足のときは肝の経絡上の虚した所に鍼を刺入して留置し、脈気が大きくなったところで抜鍼し、血が泄れないようにします。
形が有余すると腹が膨れ小便の出が悪くなります。
形が不足すると手足が不自由になります。
形有余のときは陽明の経脈を瀉します。
形不足のときは陽明の絡脈を補します。
志が有余すると腹が膨れ下痢します。
志が不足すると手足が冷えてきます。
志有余のときは然谷の鬱血を瀉血します。
志不足のときは復溜を補します。
実を瀉す刺法:
患者の吸気に従って刺入し、鍼と気を一緒に内に入れ、邪気が出るための門を開きます。患者の呼気に従って抜鍼し、鍼と気を一緒に出し、鍼孔を閉じないで邪気を追い出します。
虚を補す刺法:
気持ちを落ち着けてから患者の呼気に従って刺入し、鍼孔をしっかり塞いで気が泄れないようにします。気が至って充実してきたら吸気とともに速やかに抜鍼して鍼孔を閉じます。
-心は神を蔵し、肺は気を蔵し、肝は血を蔵し、脾は肉を蔵し、腎は志を蔵す。
-陽虚すれば則ち外寒し、陰虚すれば則ち内熱し、陽盛んなれば則ち外熱し、陰盛んなれば則ち内寒す。
-身形に痛みありて九候に病なければ、則ち之を繆刺す。痛み左にありて右脈を病む者は、之を巨刺す。
素問・繆刺論篇第六十三
経脈上を切診して、その虚実を詳細に調べ、それを調えます。
これによって治癒しない場合には、痛む所と反対の経脈に刺入して左右差を調えます。これを巨刺といいます。
痛みがあっても経脈に異常がない場合には、病が絡脈に溢れているので、皮部の絡脈の鬱血した所を調べて瀉血します。これを繆刺といいます。
例えば、邪気が手陽明大腸経の絡脈に入り込めば、耳が聞こえなくなったり、耳鳴りが起こることがあります。このときには、手の爪甲根部の商陽か中衝に鍼を刺します。左が聞こえないときは右、右が聞こえないときは左に取穴します。たちどころに耳が聞こえるようになり、耳鳴りもおさまります。
-邪、皮毛に客し、入りて孫絡に舍し、留まりて去らず、閉塞して通ぜず、経に入ることを得ず。大絡に流溢して、奇病を生ずるなり。
素問・四時刺逆従論篇第六十四
麻薬と覚醒剤とタバコと、その毒性はいかほど違うのでしょうか。前2者は法律で禁じられ、違反すると処罰されますが、後者は様々な疾病を招くにもかかわらず容認されています。これが、政治というものなのです。
丸山ワクチンは効果例があるにもかかわらず保険不適用ですが、タミフルはエビデンス不明にもかかわらず保険が適用されています。高速道はETCでは千円で走れますが、現金だと高い料金を徴収されます。西洋医学は医療で、東洋医学はそれを補完する医療行為とされています。これらも、みな政治なのです。
さて、
人体は天地の気の運行の影響でいろいろな病を起こします。しかし、どんなに種々雑多な病の変化があっても、その季節の気血のある所に基づいて治療すれば、外邪を排除できます。四季の刺法に逆らった治療を行うと、気血逆乱の状態に陥ります。これを防ぐためには、三部九候の脈診を的確に行うことが大事です。と、いつものように、口をすっぱくして素問は語っています。
-春の気は経脈にあり、夏の気は孫絡にあり、長夏の気は肌肉にあり、秋の気は皮膚にあり、冬の気は骨髄の中にあり。
素問・標本病伝論篇第六十五
昨日、夕方、宇治川観月橋下流の河川敷にツバメを見に行きました。毎年、8月上旬、京都中のツバメがここに集まり、数日間宿り、そして、南のフィリピン方面に立ち去って行くのだそうです。その数は圧倒的で、先週の8日、野鳥の会の観測では5万羽だったそうです。残念ながら、昨日は、数十羽程度でした。もう、フィリピンに飛び立ったのでしょうか。
さて、
病には標と本があり、本が根本的な病で、標がそれから派生した病です。
病の本と標を見極め、どちらを先に治療するかが重要となります。
基本的には本を先にし、標が残っておればそこで標を治療すればよろしい。
しかし、急性の病や大小便の不通などでは、それが標であっても先に治療しなければなりません。
-標本を知る者は万挙して万当す。標本を知らざるは是れを妄行と謂う。
素問・天元紀大論篇第六十六
この第66篇から第74篇まで、散逸している第72、73篇を除いた7編は、運気7篇と呼ばれ、後日、唐の王氷が編集したものとされています。これらの篇では、五運六気の壮大な哲学が語られます。鍼灸師には、あまりにも荒唐無稽だとして、評判が良くありませんが、天文、暦、占い、方術を司る陰陽師にとっては重要な篇であります。
本篇は、五運六気説の導入部で、基本的な考えが述べられています。
五運六気説の基本用語をまとめると以下のとおりです。
六気は天の気で、次の三陰三陽です。
少陰(火)は君火が天気を司る
太陰(土)は湿気が天気を司る
少陽(火)は相火が天気を司る
陽明(金)は燥気が天気を司る
太陽(水)は寒気が天気を司る
厥陰(木)は風気が天気を司る
天を司る司天の客気は、少陰からスタートし、6年で一巡します。
五運は地の気で次の5行です。
土、甘を生じ、甘、脾を生ずる
金、辛を生じ、辛、肺を生ずる
水、鹹を生じ、鹹、腎を生ずる
木、酸を生じ、酸、肝を生ずる
火、苦を生じ、苦、心を生ずる
地の歳運は、各運に太過と不及があるため、5×2=10年で一巡します。
土運太過からスタートし金運不及、水運太過、木運不及と続きます。
十二支の気は以下のとおりです。
子(ね)は北で水
丑(うし)は中央で土
寅(とら)
卯(う)は東で木
辰(たつ)は中央で土
巳(み)
午(うま)は南で火
未(ひつじ)は中央で土
申(さる)
酉(とり)は西で金
戌(いぬ)は中央で土
亥(い)
1年は6期に分けられ、それぞれの部主の主気は以下のとおりです。
初気(間気)厥陰:大寒(1月20日頃)からの60日
二気(間気)少陰:春分(3月21日頃)からの60日
三気(司天)太陰:小満(5月21日頃)からの60日
四気(間気)少陽:大暑(7月23日頃)からの60日
五気(間気)陽明:秋分(9月23日頃)からの60日
終気(在泉)太陽:小雪(11月23日頃)からの60日
実際の天の気(客気)は1年に1期ずつずれていき、6年で一巡します。
客気が上で主気が下、客気が君火で主気が相火なら順で病勢は軽微です。
司天は天にあって、その年の前半を司り、左右に陰陽の間気を従えます。
在泉は地にあって、その年の後半を司り、左右に陰陽の間気を従えます。
歳会とは歳運が十二支の気と一致した年で病勢は穏やかです。
天符とは歳運が司天の気と一致した年で病勢は急激です。
太一天符(三合)は歳会でかつ天符である年で病勢は激烈です。
同歳会は太過で歳運が在泉の気と一致した年で病勢は歳会と同じです。
同天符は不及で歳運が在泉の気と一致した年で病勢は天符と同じです。
年の干支は1984年の甲子からスタートし、60年で一巡します。
歳運は1984年の土運太過からスタートし、10年で一巡します。
司天の気は1984年の少陰からスタートし、6年で一巡します。
在泉の気は1984年の陽明からスタートし、6年で一巡します
これで暦ができ、年ごとの気候と病勢が予測できます。
例えば、
2009年は丑年で十二支の気は土、歳運が土運不及で土です。十二支の気と歳運が一致しますので歳会となります。司天の気は太陰で土、歳運の土と一致しますので天符となります。従って、2009年は天符でかつ歳会の年で太-天符となり、病勢は激烈となりやすく、警戒が必要です。
芸能界では、ギランバレーで闘病中の大原麗子、糖尿病で闘病中の山城新伍と、最近相次いで亡くなられました。太-天符の年は60年間に4回やってきます。今年は、新型のインフルエンザも蔓延していますので、用心しましょう。
闘病中の方は、病勢が悪化しないよう、毎日のお灸を続けましょう。
-物の生ずる之を化と謂い、物の極まる之を変と謂い、陰陽の測られざる之を神と謂い、神の用の無方なる之を聖と謂う。
-それ変化の用たるや、天に在りては玄となり、人に在りては道となり、地に在りては化となる。化は五味を生じ、道は智を生じ、玄は神を生ず。
素問・五運行大論篇第六十七
高校1年の夏、小説などあまり読んだことのない頃のこと、先輩の話す「罪と罰」のラスコーリニコフの苦悩が面白く、すぐに、その本を借りて読みました。それから、スタンダール「赤と黒」、フローベル「ボヴァリー夫人」、ハーディ「テス」、デュ・モーリア「レベッカ」、C.ブロンテ「ジェイン・エア」、ロマン・ロラン 「ジャン・クリストフ 」、ヘミングウェイ「武器よさらば」、ミッチェル「風と共に去りぬ」、ヘッセ「デミアン」、カフカ「城」、と憑かれたように、次から次と有名な世界文学を読み上げました。洋漢堂は、その夏ロマンチストとなり、同人雑誌「天女」を発刊しました。「天女」は若干の愛好者に惜しまれつつ、高校3年の夏、4号で終了しました。
さて、本篇では、地の五運(五行)の働きについて語られます。
-東方生風、風生木、木生酸、酸生肝、肝生筋、筋生心。
-南方生熱、熱生火、火生苦、苦生心、心生血、血生脾。
-中央生湿、湿生土、土生甘、甘生脾、脾生肉、肉生肺。
-西方生燥、燥生金、金生辛、辛生肺、肺生皮毛、皮毛生腎。
-北方生寒、寒生水、水生鹹、鹹生腎、腎生骨髄、髄生肝。
-天地なる者は万物の上下なり、左右なる者は陰陽の道路なり。
素問・六微旨大論篇第六十八
高校2年の夏、同級生から、中央公論の世界の名著シリーズのひとつ、フロイトの「精神分析学入門」を読むように薦められました。一語一語かみしめながら読み、読み上げたときには、いっぱしの精神科医になっておりました。それからは、同級生とお互いに見た夢を分析し合いました。私の夢は単純で、同級生からは性的欲求不満だと指摘されました。同級生の夢は複雑で、私は彼の心の奥深くまで分析を試みました。同級生は「哲学者と考古学者にだけはなるなよ」と忠告しました。洋漢堂は、その頃、哲学者になる夢を持ち始めていました。
さて、
本篇では天の六気の働きについて語られます。
素問では、1日を100刻、1年を365日と25刻としています。
1年は6期に別れ、それぞれ厥陰・少陰・太陰・少陽・陽明・太陽の
6種の気によって支配されています。これが地の主気です。
これに対し、天の客気はこの6種の気が毎年1期ずつ移動していきます。
各年、各期で、天の客気と地の主気が相互交換を行います。
そのため、天候が変化し、天候の影響がヒトに及ぶことになります。
この天の客気と地の主気が交わっているところは「気交」と呼ばれ、
まさに人間が住んでいるところです。人体でいえば臍の部分であり、
臍によって病勢を判断し、臍の治療によって病気を治癒せしめます。
-天枢の上、天気これを主り、天枢の下、地気これを主り、気交の分、人気これに従い、万物これに由る。
素問・気交変大論篇第六十九
高校3年の夏、友達と二人、父の友人の国語の先生を訪問しました。友達は石川達三の「金環蝕」、私は高橋和巳の「憂鬱なる党派」を、父の友人の国語の先生から手渡されました。「憂鬱なる党派」は、読み上げるのにひと夏かかりました。ほとんど理解できない難解な政治の世界が展開されておりました。洋漢堂は、青春の蹉跌を味わいました。哲学者になる夢はちょっと横においといて、しばらくは、数と方程式だけで世界が解明できる単純な世界に進むことになりました。
さて、
木・火・土・金・水の五運にはそれぞれ太過と不及があり、土運太過からスタートして金運不及、水運太過、木運不及と進み、10年で一巡します。本篇では、五運の太過と不及のそれぞれの年の天候と病勢について語られます。
例えば、2009年の土運不及の年については以下のように説明されています。
-歳土不及、風迺大行、化気不令、草木茂栄、飄揚而甚、秀而不実。上応歳星。民病飧泄、霍乱、体重腹痛、筋骨繇復、肌肉 瞤 酸、善怒。蔵気挙事、蟄虫早附、咸病寒中、上応歳星鎮星、其穀黅。復則收政厳峻、名木蒼凋、胸脇暴痛、下引少腹、善大息。虫食甘黄、気客於脾、黅 穀迺減、民食少失味。蒼穀廼損、上応太白歳星。上臨厥陰、流水不氷、蟄虫来見。蔵気不用、白迺不復。上応歳星、民迺康。
素問・五常政大論篇第七十
本篇では、再度、五運の変動による天候と病勢について語られます。太過、不及の他に、調和の取れた平気の年についても語られます。さらに、三陰三陽の六気が人体の臓に及ぼす影響についても語られます。
例えば、2009年の太陰司天の年については以下のように説明されています。
-太陰司天、湿気下臨、腎気上従、黒起水変、埃冒雲雨。胸中不利、陰痿、気大衰、而不起不用、当其時、反腰? 痛、動転不便也、厥逆。地乃蔵陰、大寒且至、蟄虫早附、心下否痛、地裂氷堅、少腹痛、時害於食。乗金則止。水増、味乃鹹、行水減也。
素問・六元正紀大論篇第七十一
本篇では、再度、三陰三陽の六気が人体に及ぼす影響について語られます。さらに、五運の太過・不及と六気の組み合わせは60年で一巡しますが、これは干支で表され、この干支ごとの天候と病勢についても語られます。
例えば、2009年の己丑年については以下のように説明されています。
-己丑(太乙天符)己未歳(太乙天符)。上太陰土、中少宮土運、下太陽水。風化清化勝復同。邪気化度也。災五宮。雨化五、寒化一、正化度也。其化、上苦熱、中甘和、下甘熱、薬食宜也。
素問・刺法論篇第七十二
本篇は散逸しています。
そこで、名伯楽のことについてお話しします。
「世に伯楽あって、しかる後に千里の馬あり」というように、いかなる駿馬も名調教師にめぐり合えなければ名馬にはなれません。山口県の離島の農民の生まれの民俗学者、宮本常一(1907~1981年)も、渋沢栄一の孫、渋沢敬三(1896~1963年)という名伯楽に合えなければ、庶民・民具の視点による独自の民俗学を構築できなかったと思われます。
師の敬三が大蔵大臣のころ:
師:「幣原さんは大変なことを今考えておられる。これから戦争を一切
しないために軍備を放棄することを提唱しようとしておられる」
弟子:「軍備を持たないで国家は成り立つものでしょうか」
師:「成り立つか成り立たないかではなく、全く新しい試みであるから、
軍備を持たないでどのように国家を成立させるかをみんなで考え、
工夫し、努力することで新しい道が開けてくるのではないだろうか」
そこで、弟子はこう考えました:
「一人一人がそれぞれの立場で平和のためになさねばならぬことをなすとすれば、農民の立場からは食料の自給をはかることではないか。食料を自給し得ている国は外国の干渉を排除することができる。今日までの歴史をみれば明らかである」
弟子の常一が離島を復興する事業に行き詰っていたころ:
師:「それは離島振興課を設けることを考えたがよい。
それには理解のある経済企画庁長官の出たとき、
代議士の誰かに国会で離島問題について質問してもらい、
大臣の言質をとるようにすればよい」
後日、弟子は実直なS氏が長官になられときにY氏に質問してもらいました。
そして、経済企画庁に離島課が設置されたのであります。
素問・本病論篇第七十三
本篇は散逸しています。
そこで、樹木医についてお話しします。
「私たちの命は樹木や樹木を取り巻く大自然に生かされている」と、樹木医の女性第1号、塚本こなみさんは言います。彼女の姿は達意の鍼灸師と重なります。以下、彼女のことばから:
・樹木そのものが持っているエネルギーの波動は触れると感じることができます。手にビリビリ感じます。人でも感じます。体に触るのではなく、10センチ離れたところで、エネルギーが来ていたり、身体の片側だけ飛び出ていたりします。木は、それを調整してあげればバランスが整います。ただ、これは誰も信じませんので、どうでもいいことです。生命がある以上、熱量がありますから、すべての人にエネルギーの波動が必ずあると思います。
・治療するときに「今からあなたの治療をします。私のできる限りのことをやるけれども、あとはあなたが教えてくださいね」と木に手をかざして教えを請います。元気な木からは波動をいっぱいいただきます。逆に弱った木には私の波動が行ってしまいます。
・木は、してほしいことを必ず発信しています。発信しているときから私と木の交信が始まって、一つ一つ選択していくわけです。なかには安楽死を望んでいる木もあります。依頼主にきちんと説明して、ご理解をいただければそのようにします。そうしないと隣の木に根の病気などが伝染することもあります。
・人間の命は80年、90年というスパンですが、樹木はその10倍、20倍のスパンの中で自然の循環をしていくわけです。そういった木の前に立つと、治療さえも人間のエゴではないか、何もしないほうがいいんじゃないか、と思うことがあります。浅学な自分が小手先の知恵やほんの20年、30年学んだだけの技術や知識でやっても、この木はそれを欲していないし、必ずしも治療行為にならないのではないか。
最後には何もできなくなる自分がいます。
素問・至真要大論篇第七十四
往療先での話し。
70代、女性、広範脊柱管狭窄症。足の照海にお灸をすえようとして靴下を脱いでもらったら、照海のある足首を取り囲むように糸が結んであるので、訊いたところ、「昔は、よく転んでたんですよ。そしたら、近所のおばあさんが、足首に糸を結ぶと転ばなくなるわよ、と教えてくれたんです。それから、毎月一日に糸を結ぶようにしたんです。そしたら、不思議なんですけど、今まで、転んだことないんですよ。」
さて、運気七篇も、いよいよ本篇で最後です。
本篇では、最も重要である司天の気と在泉の気について、その働き、六気・五行との関係、病との関係、治療法などについて詳細に語られます。また、臨床に大変役立つ病の機微をつかむ19条についても語られています。
①諸風掉眩、皆属於肝。
②諸寒收引、皆属於腎。
③諸気憤鬱、皆属於肺。
④諸湿腫満、皆属於脾。
⑤諸熱瞀瘛、皆属於火。
⑥諸痛痒瘡、皆属於心。
⑦諸厥固泄、皆属於下。
⑧諸痿喘嘔、皆属於上。
⑨諸禁鼓慄、如喪神守、皆属於火。
⑩諸痙項強、皆属於湿。
⑪諸逆衝上、皆属於火。
⑫諸脹腹大、皆属於熱。
⑬諸躁狂越、皆属於火。
⑭諸暴強直、皆属於風。
⑮諸病有声、鼓之如鼓、皆属於熱。
⑯諸病胕腫、疼酸驚駭、皆属於火。
⑰諸転反戻、水液渾濁、皆属於熱。
⑱諸病水液、澄澈清冷、皆属於寒。
⑲諸嘔吐酸、暴注下迫、皆属於熱。
素問・著至教論第七十五
往療先での話し。
80代、男性、パーキンソン病。山城新伍が糖尿病で亡くなった話しをしていたところ、「昔、糖尿病で死ぬ人なんていなかったね。あれは、ぜいたく病だね。うまい肉を食べ過ぎたんだね。戦時中は、イモの茎だけだったね。イモは配給だったしね。食べないで働いた人が長生きなんだよ。」
さて、洋漢堂の素問との格闘の夏も、残ること1週間となりました。これまでは師の岐伯から黄帝が教えを受けていましたが、最後の七篇は、医道をいまだ極めていない雷公が登場し、黄帝から教えを受けます。
本篇では、三陽、すなわち手足の太陽経の病について教えを受けます。三陽の病は、病勢が速やかで、顔色にも脈状にも異常が現れないので、診断が難しい、と雷公が悩んでいます。そこで、黄帝は言います。
「太陽経は至陽であるので、精神的に驚きやすい状態になり、病状が疾風のように突発し、雷のように激しい発作が起こり、9つの穴が全て塞がり、熱気があふれ、のどは渇き、病邪が内部に迫ると下痢を起こし、心に迫ると心臓が苦しくなる。これで、三陽の病と分かるはずじゃ。」
-道は上天文を知り、下地理を知り、中人事を知らば以て長久たるべし。
素問・示従容論第七十六
往療先での話し。
60代、女性、変形性股関節症。前回、熱帯魚が一匹ずつ入った小さい水槽が2個置いてあったのに、今回は1個の水槽だけだったので、どうしたのか訊いたところ、「1個の水槽は近所の人の留守に預かっていたものなの。うちで預かっているときは元気だったのに、返したらね、3日目に死んじゃったの。うちは、クーラーないからよかったけど、そこは、一日中クーラーの中で、熱帯魚、死んじゃったそうよ。」
さて、素問に戻ります。
肝虚、腎虚、脾虚の病は類似していて弁別が難しいのですが、頭痛があり、筋が引きつり、節々が重だるく、呼吸が弱々しく、シャックリして、腹が張り、精神的に過敏となって驚きやすく、脈を診ると、浮かせて弦脈で、押さえると石脈の患者さんを前に、どう診断していいのか、雷公が悩んでいます。そこで、黄帝は言います。
「脈が浮・弦なのは腎気の不足、沈・石なのは腎気の沈滞を現している。呼吸が弱々しいのは腎気の不足で三焦の機能が不良となっているからで、咳が出て苦しむのは腎気が肺に逆行しているからである。従って、邪気は腎のみにある。脾・肝・腎の三蔵にあると思うのは誤診じゃ。」
-それ年長なれば則ちこれを腑に求め、年少なれば則ちこれを経に求め、年壮なれば則ちこれを蔵に求む。
素問・疏五過論篇第七十七
往療先での話し。
90代、男性、肺線維症。酸素ボンベの横に、詩吟の本があったので、訊いたところ、「詩吟はかーちゃんだよ。私はカラオケ専門。えへえ。酸素って有り難いなあ。これを付けると本当に楽だよ。(治療中の私を見ながら)先生は徳を積んどられるねえ。患者さんを楽にして喜んでもらうのが仕事だからね。」
さて本篇では、
医者が犯しやすい5つの誤診について、黄帝が雷公に説明しています。
①精神的なストレスが五臓を冒しているのを見誤ること。
②飲食や住環境が五臓の精気を傷っているのを見誤ること。
③脈診を誤ること。
④貴賤と富貴と苦楽が患者の精神を鬱滞させているのを見誤ること。
⑤病の起こった原因を見出せないまま治療すること。
-分部を審かにし、病の本始を知り、八正九候診せば、必ず副う。
素問・徴四失論篇第七十八
往療先での話し。
80代、女性、卵巣がん末期。「先生、ミノファーゲンCという薬知ってますか。これは安いんですけど、肝臓に良く効くんですよ。安いから、病院ではなかなか処方してくれませんけどね。先生、そこ、そこのところを押して下さい。そう、そこです。ああ、いい気持ちです。これが癌の痛みというもんですかねえ。明日、ホスピスに入院するんです。息子がすすめるのでね。」
さて本篇では、
未熟な医者が犯す4つの失敗について、黄帝が雷公に説明しています。
①陰陽と逆従の理を知らないで診察する。
②師の教えを遵守せず、勝手に大法から離れた医術を行う。
③患者の社会環境、生活状態、精神状態を斟酌しないで治療する。
④問診をいい加減にして、脈診のみで、勝手な病名をつけて治療する。
-十全ならざるゆえんの者は、精神専ならず、志意理まらず、外内相い失すればなり。
素問・陰陽類論篇第七十九
往療先での話し。
80代、女性、脳梗塞による片麻痺、ご主人は認知症。奥さんの治療中に、ご主人いわく、「私は、船に乗っておりました。台湾にもシンガポールにも行きました。かーちゃんは看護婦です。大きな病院の婦長さんですよ。」しばらくして、ご主人いわく、「私は、船に乗っておりました。台湾にもシンガポールにも行きました。かーちゃんは看護婦です。大きな病院の婦長さんですよ。」また、しばらくして、 「私は、船に乗って・・・・」
さて本篇では、正月に、黄帝が八方の風の気を観測した後、雷公に質問します。
「五臓の中で一番貴いのはどれじゃ。」
雷公が答えます。
「春は甲乙が司り、身体では肝が司ります。肝が一等貴いと思います。」
黄帝が言います。
「肝は最下位の蔵じゃ。全ての陰陽に通づる肺こそ最も貴いと心得よ。」
-三陽父たり、二陽衛たり、一陽紀たり。三陰母たり、二陰雌たり、一陰独使たり。
素問・方盛衰論篇第八十
病院での話し。
80代、女性、抜歯後疼痛。SSPを頬と頤にしようと準備していると、身の上話が始まりました。「私、天涯孤独でござります。一人娘で、子供はおりません。主人はくろうとの人と浮気しておりました。ずうと辛抱しておりましたが、20歳下のしろうとさんと出来たときに別れました。その後、母と二人暮らしていましたが、母も97歳で亡くなりました。下の歯はインプラントを入れたんですが、合わなくて数年後に抜きました。上の歯は女医さんにさんざんいらわれてから、ずーうと痛みが取れません。舌はピリピリした痛みが続いております。いろいろな病院に行きましたが治りません。薬もどれも合いません。鍼もしましたが、かえって痛み出したので止めました。お医者さんは、神経だとおっしゃいます。私、おかしいんです。私、天涯孤独でござります。先生どうぞ、お願いいたします。」
さて本篇では、
陰陽の気の盛衰や病の逆従について語られますが、気が虚したときの夢診断についても語られています。
肺虚の夢:白い物。人が斬られ血が乱れ散る。戦闘の場面。
腎虚の夢:船。溺れる。水の中で何かにおびえる。
肝虚の夢:菌香や生草。樹木の下に横たわり起きられない。
心虚の夢:火事場の救出。太陽や雷。大火事で焼かれる。
脾虚の夢:飲食物が足らない。垣や家を作る。
-是を以って診に大方あり、坐起に常あり、出入に行あり。以って神明を転じ、必ず清、必ず淨、上に観、下に観、八正の邪を伺い、五中の部を別つ。脈の動静を按じ、尺の滑渋寒温の意に循いて、その大小を視、これを病能に合す。逆従以って得、復た病名を知りて、診十全たるべく、人情を失わず。
素問・解精微論篇第八十一
病院での話し。
60代、女性、小脳テント髄膜腫術後PHN。頚のところの星状神経節へ近赤外レーザーを照射しようとしたら、「先生、これをしてもらってるあいだは、天国なんですよ。昔を思い出すんです。昔は痛みなんてなかったんだなあ、て。」
さて、
素問の最終篇です。
雷公は、黄帝に質問します。
「大声を上げて泣いても涙の出ない人がいるが、どうしてですか。」
黄帝がつれなく答えます。
「それは医書に載っていることだ。」
雷公が、また質問します。
「涙と鼻水はどこから流れ出てくるのですか。」
黄帝がつれなく答えます。
「それは治療に役立たぬことじゃ。」
しかし、やさしい黄帝は、愚鈍な雷公にじっくりと説明してあげます。
「人の精神状態は目や顔色に出るが、目や顔色は心の神が司っている。
涙の源である水は腎の志が司り、鼻水は腎と兄弟関係にある脳髄が司る。
従って、腎の志と心の神が動揺すると涙が出る訳じゃ。
動揺が甚だしいと、涙と兄弟の鼻水がつられて流れ出てくるし、
動揺が少ないと、心と腎がしゃんとしているから声だけで涙は出ない。」
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