基礎中医学
- yokando2
- 2019年9月30日
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たにぐち書店から1990年に発行された『基礎中医学』は、1986年に南京中医学院教授王新華先生の執筆された『中医基礎理論』の日本語訳で、訳者は鍼灸師の川合重孝先生です。
私は、川合先生とは、10年ほど前、京都のとある診療所で開かれていた東洋医学の勉強会でご一緒した仲です。この勉強会は、元学生運動家・元獄囚・元外科医で当時内科医であった先生が主宰され、数人の医師と数人の鍼灸師が参加しておりました。この会を主催していた先生は、外科医の時に多くの患者の手術を経験し、そのうちの多くの患者の病巣は除去できたものの命を救うことができなかったそうです。そのことに対してむなしさを感じられ、手術をせずに患者を救えないかと考え、東洋医学による処方を専門とする内科医に転身された方です。
この勉強会では、インドのアーユルヴェーダ、チベット医学から中国の古典医学、朝鮮医学など、幅広い東洋医学の文献を各自が持ち寄り、ゼミ形式で行われていました。ときには、インドからアーユルヴェーダの著名な医師を招待し、その場に不妊治療中の女性を呼んで、その先生の診断を見学し、皆でその女性の脈を見たりしたこともあります。ちなみに、その女性は、半年後、そのインドの先生が処方した薬が効いたようで、妊娠されました。
川合先生は、中国への留学経験もあるすぐれた鍼灸師です。また、気を感じる能力も高く、勉強会に持ち込まれたパワーストーンの水晶に全く気を感じることができなかった私に対し、「こんなに気がはっきり出ているのに、どうして感じないのか」とあきれ顔で話されたのを覚えています。
さて、本題に入ります。
本書には、中医学の基礎中の基礎である陰陽五行説、中医学独特の概念である臓象・気血津液・経絡、さらに中医学による治療に直結する病の原因、機序、予防と治療の原則について書かれています。これらの項目の中で、臨床上最も大事なのは臓象の理解ではないかと、私は思います。
臓象の中でも基本となる五臓(心・肝・脾・肺・腎)の働きが理解できていないと、いくら脈を診ることができても、いざ治療する段になると、何からやっていいのか判断できず、なおざりの紋切り型の治療で終わってしまい、幸運にも患者の愁訴がとれても、何が功を奏して治ったのか分からないままとなり、今後の治療に役立てることができません。もし、臓象を理解して治療にあたったならば、たとえ治せなくても、その失敗の原因を究明することができ、今後の治療に役立てることができるからです。
それでは、五臓の働きについて、本書に即してまとめてみます。
【心】神(平常心)を宿す
・血脈を主る
(心臓の機能)血液の生成に関与し、血液の運行を推動する
・神明を主る
(大脳の機能)精神活動を主管する
【肝】魂(決断力)を宿す
・疏泄を主る
気を暢達に疎通させ、血液運行と津液代謝を促進し、脾胃の消化機能を助け、情動を調節し、月経・排精を通調する
・蔵血を主る
血液を貯蔵し、血流量を調節する
【脾】意(思考力)を宿す
・運化を主る
飲食物を消化し、精微と水液を吸収し、水穀の精気を生成して心肺に輸送する
・統血を主る
血液が脈管中を流れるのを統制し、脈外へ逃げ出すのを防ぐ
【肺】魄(やる気)を宿す
・呼吸を主る
自然界の清気を吸入し、体内の濁気を呼出し、水穀の精気を清気と結合して宗気を生成し、気の運動を調節し、心を助けて血を巡らせる
・行水(通調水道)を主る
水液を体表と内臓に送り、汗・呼気と尿・大便として水分を排泄する
【腎】志(根気)を宿す
・生長を主る(右腎=命門)
体の成長発育と生殖を主管する
・津液を主る(左腎)
水液の輪布と排泄を主管し、水液代謝の平衡を維持する(清なるものは上昇させて心肺に戻し、濁なるものは下降させて尿として膀胱経由で排出する)
・蔵精を主る
先天の精を蔵し、髄(骨髄、脳髄、脊髄)を生み、肝とともに血液を統制する
・納気を主る
肺からの宗気を受蔵し、先天の精を活性化して各臓器を滋養する
以上の五蔵の働きを頭に入れ、これらの蔵の働きが損なわれた時の状況を推量すれば、望聞問切の四診が的確に行え、患者のどの蔵が虚しているか、実しているのかが診断できます。診断ができれば、あとは、難経・六十九難にある「母を補い子を瀉す」の原則に随って治療すればいいわけです。鍼灸では以下のような治療になります。中医学での治療も日本の経絡治療も根本は同じであることがわかります。本書の64ページを引用します。
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針灸治療:“五輸穴”の五行属性及びその生克関係で取穴する方法がある。五輸穴というのは各十二経脉中の肘膝関節以下の五個の特定穴であるが、それぞれ井・栄・兪・経・合と呼んでいる。その五行属性は井は木(肝)、栄は火(心)、兪は土(脾)、経は金(肺)、合は水(腎)に属している。選穴は虚証にあってはその経の母経の母穴あるいは本経の母穴を補うもので、肝虚証であれば腎経の合穴“陰谷”もしくは本経の合穴“曲泉”を、実証ならその経の子経の子穴あるいは本経の子穴を瀉すというもので、すなわち肝実証ならば心経の栄穴“少府”あるいは本経の栄穴“行間”に取穴する。
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