ヘシオドス
- yokando2
- 2023年12月6日
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『仕事と日々』は古代ギリシアの詩人ヘシオドスが怠惰で性悪な弟ペルセースに労働の尊さを説いている叙事詩である。その中にある人生訓の一部を紹介しよう。
【嫁】
しかるべき年頃で嫁を迎えて家に入れよ。
嫁をもらう年は三十にあまり足らぬのもよろしからず、
それをあまり越えてもならぬ、それが結婚の適齢じゃ。
妻は、女となって四年、五年目を迎えた娘を娶れ。
嫁には生娘をもらえ、さすれば妻として心うべき嗜みを躾けることができる。
近所の笑い物になるような縁は結ばぬよう、万事十分に調べた上でせよ。
良妻に勝るもらいものはなく、悪妻を凌ぐほどの恐るべき災厄もない。
食い意地がはり、いかに頑強な夫でも早々と老いこませてしまう嫁のことじゃ。
【小便】
陽に向かい、立ったままで放尿してはならぬ。
陽が沈めば、陽が昇るまで、道の上であろうと、道から外れておろうと、歩行中に放尿してはならぬ。
前をはだけてしてもいかぬ。
分別のある男ならば、しゃがんでするか、堅固に囲った中庭の壁の傍らまで行ってする。
海に注ぐ河の河口でも、水源でも、決して小便をしてはならぬ、心してそれを避けよ。
ところで、
ヘシオドスが生きていたときと同じころ(紀元前700年頃)に、『イリアス』や『オデッセイ』を書いたホメロスという大詩人がいた。伝説では、カルキスの競技場で二人が歌競べを行い、ヘシオドスが勝利したことになっている。その経緯は以下のとおり。
ヘシオドスが競技場の中央に進み出て、ホメロスにむかって次々に質問をかけ、ホメロスがそれに答えていった。例えば、
ヘシオドス:
死すべき者にとり、何がもっとも賞でたきことと、そなたは思うぞ。
ホメロス:
宴に与る客は屋敷の内に席を列ねて、楽人の歌に耳を傾け、
傍らの食卓にはパンと肉が山と盛られ、
酌人は混酒器より美酒を酌んで、
席を廻り、酒杯に酒を注ぐ、
これぞ愉楽の極致とわしは思うぞ
すると、観衆がみな感嘆しホメロスを讃える。こういった問答がずうっと続き、ことごとくホメロスの方に軍配が上がったわけだ。最後に、王様は二人にそれぞれの自作の詩の中から、もっとも美しい詩節を朗誦するように命じた。まず、ヘシオドスが『仕事と日々』の中から、以下の詩節を朗誦する。
アトラスの姫御子、プレアデスの昇る頃
刈り入れを、その沈む頃に耕耘を始めよ。
この星は四十夜、四十日の間姿を隠し、
一年の廻るがままに、やがて鎌を研ぎにかかる頃、
ふたたびその姿を現す。
これぞ野の掟であり、海近く住む者にも、
また山峡に、波騒ぐ海原を遠く離れて、
豊穣の沃野に住む者も、等しく守るべきものじゃ。
肌着一つになって蒔き、肌着一つで耕し、
肌着一つで刈り入れよ――すべてそれぞれの時に適う時にな。
それにつづいてホメロスが『イリアス』の中の勇猛な戦いの場面を謳いあげる。観衆はホメロスの詩句の非凡さを賞め称える。しかし、王様は、「勝利者たるべきは戦争や殺戮を縷々として述べる者ではなく、農業と平和の勧めを説く者でなくてはならぬ」と言って、ヘシオドスに勝利の冠を与えたということである。
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