オルダス・ハクスリー
- yokando2
- 2023年11月14日
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私の手元にK予備校のH先生による古いテキスト「高級英文研究(昭和47年)」がある。これは私の宝だ。何となれば、中学、高校で習った英文と全く異なる、真に生きた教材だったからである。その「はしがき」には、こう記されている。
「これらの英文を味読研究してゆくうちに、語学力の向上はさることながら、思想力、判断力、理解力が得られ、今後学問をする上にも、真に人生を生きて行く上にも、力強い指針となる。長文英語読解力を養うことを目的として、あわせて、スケールの大きい深い思想と高い英知を提供するという点で、このテキストはユニークなものと信じている。」
そして、このテキストには、深い思想をもつ40編の論評文が載せてあり、ラッセル、トインビー、アインシュタイン、リード、スタインベック、ラスキンなどに混じって、オルダス・ハクスリーの文が3編載せてある。私がオルダス・ハクスリーを読んだ最初である。そのうちの1編を、受験生になったつもりで訳出してみる。
“『社会の配分がうまくいっておらず(今の世の中のように)、少数の人たちが大多数の人を力で圧するとしたら、自然に対する勝利は必然的に過酷なものとなり、権力と抑圧が増大するだけとなるだろう。このことが、今、実際に起こっている。』
トルストイがこれらの言葉を残してから半世紀近くもたっているが、その時に起こっていたことが、その後も継続して起こっている。この間、科学と技術は素晴らしい進歩を遂げ、政治力と経済力の中央集権化も同様に進歩して、寡頭政治と専制政治の世となった。
科学がこのプロセスの唯一の原因ではないことは付け加えるまでもない。どのような社会悪もそれのみで原因となることはない。従って、いかなる場合にも完全な救済法を見つけ出すのは困難なのである。しかし、自由の衰退と権力の中央集権化が共に進んでいること、まさにこのことが20世紀に起きていることなのであるが、このことを招来している原因のひとつが科学であるというのに対しては全く異論をさしはさむ余地はない。“
この文章を残したオルダス・ハクスリー(1894-1963年)は、小説『すばらしい新世界』(1932)で遺伝子操作の悲劇を、小説『猿とエッセンス』(1948)で核戦争の悲惨さを、それぞれ鋭く風刺して、人間の科学偏重の愚かさをいましめたのである。
しかし、彼はここで終わらず、その解決策を模索して、チベットの死者の書や日本の禅に出会い、LSDも経験する。そして、心身両面を同時に健全化する運動(瞑想と行)を推進していった。この運動は彼の死後、奥さんのローラさんに受け継がれ、ヒトの種の保存の根源である生殖活動にまで達し、Conscious Conception(意識する妊娠?)を主張するようにまでなった。
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