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  • yokando2

アレキシス・カレル


フランス生まれの生理学・医学のノーベル賞学者アレキシス・カレル(1873-1944年)はアメリカのロックフェラー研究所で野口英雄ともいっしょになったことがある。彼が、昭和10年ころに執筆した「人間・この未知なるもの」は、世界的ベストセラーになり、日本でも桜沢如一の訳で広く読まれていた。しかし、今、読むと、当時の世界の現状分析は素晴らしいとしても、その現状を打開する方策の提言は、ちょっと、常軌を逸しているようで、仏教の国の日本人にはなじめないところがある。


昭和10年当時の世界は、大量生産、科学万能の時代になり、多くの人が単純な肉体労働やオフィス漬けの単純な頭脳労働を押しつけられていて、個性がなくなり、意欲もなくなり、芸術や宗教などの精神文化は衰退し、男性は女性化し、文明機器のおかげで女性は家事から解放されて享楽に走り、出産率は低下し、逆に社会には犯罪者や精神異常者があふれ、また医学の進歩のおかげで虚弱体質のひとたちが生き延び、老人が急激に増えてきている、と分析している。また、子供たちは、常に暖かい部屋にいて、外出するときにはエスキモーのように着込み、食物は腹いっぱい食べ、眠りたいだけ寝て、何の責任もなく、決して知的、道徳的努力をせず、面白いと思うことだけ学んで、何かと闘ったこともない、その結果、概して、彼らは感じがよく容姿も整っているが、疲れやすく、非常にわがままで、知的な鋭さや道徳観念、精神的粘り強さもない、と嘆いている。そして、これらの現状を打開するために以下のような提言をしている訳だ。


・知性、道徳的勇気、高潔さ、豪胆さをもった有能な人間を育成する。


・そのため、子供の教育は画一的な教育しかできない学校ではなく、家庭に重点を移す。


・そのため、女子は医者や弁護士や大学教授なるためではなく、子孫を値打ちある人間に育てるための高等教育を受けるべきである。


・さらに、梅毒、癌、結核、精神薄弱等の混じった家系との結婚は避け、遺伝的に優生な子孫を残すようにする。


・病気や不具の子供は殺すわけにいかないから、強者を一層強くすることによって、結果的に劣弱者を助けるようにする。均一化ではなく差を拡げて一層偉大な人間を創るべきである。


・子供には、ある状況に対して有利に反応できるように条件反射を身につけさせる。例えば、襲われたときに即座にピストルを抜くことができるように。


・若者の人間形成には、山国とか、季節の変化が激しく、日が射すことがまれで、嵐が猛烈に吹き荒れ、土地がやせているような地方で行うべきである。穏やかな南国的気候では肉体的にも精神的にも劣悪な人間になってしまう。


・年をとっても仕事をやめたり、隠退したりしてはならない。力が衰えかけている者には決して休息をあたえてはならない。


・化学薬品、ホルモン剤、ビタミン剤、定期健診、医者や看護婦の手当てなどの人為的なものに頼らず、土地の食材を食べ、自然のもので健康を維持していくべきである。病気をしても無理に熱を下げるのではなく、なるべく人間に本来備わっている自然治癒力にまかせる。


・テニスやゴルフで週末に運動するだけでは体液の恒常性は保てない。不断の運動や断食が有効で、これによって肝臓や皮下の糖と脂肪は消費され、筋肉や腺の余分な蛋白質もなくなり、外敵に対する抵抗力が養われる。


・軽い犯罪者はしばらく病院に入れて、鞭か他の科学的手段で条件反射をつけてやれば十分更生する。重罪を犯した者や精神異常者は適当な毒ガスの設備を備えた機関で安楽死させる。


以上。


どうだろうか? 私には、共感できる部分もあるが、いくつかの提言には共感できない。

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