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首藤傳明

  • yokando2
  • 2023年10月2日
  • 読了時間: 4分

首藤傳明は平成の名鍼灸師といえるかもしれない。首藤先生は1932年に大分県に生まれ、鍼灸師となり、日々技を磨き、名鍼灸師となった。今も全国から首藤先生を慕って、若い人たちが大分にある私塾「弦躋塾」に学びに来ている。その首藤先生の著作に『経絡治療のすすめ』(1983年、医道の日本社)というのがある。その中で、こんなことを語っている。鍼灸師とは孤独なのである。


A) 鍼とはメンタルなものである。師も友も鍼の術を教えることはできない。親すらもできない。鍼とは孤独なものである。


B) 学だけでは鍼は効かない。学のない鍼も効かない。毎日の術があってこそ効いてくる。毎日の行にこそ鍼上達の秘訣がある。


C) 毎日の行、それは東洋医学、広く東洋なるものを意味している。真に東洋なるものを会得したときにこそ、経絡治療の心をつかんだといえる。


鍼灸は約2000年前に漢時代の中国で完成されたもので、その伝統は今、中国では中医学、韓国では韓医学として引き継がれている。そして日本にも伝わり、中医学とも韓医学とも異なる日本的な鍼灸が様々な流儀で今行われている訳だが、これらの日本式の鍼灸の特徴は何かというと、何といっても刺入する深さが浅く(ほとんど当てるだけで刺さないこともある)、痛みがなく、そして実によく効くことである。経絡治療でも、入江式でもそうだし、そのほかの流儀でもあまり深く刺すことはない。


この日本式鍼灸の極めつけは、首藤傳明先生の「超旋刺」だろう。体表のツボに鍼を当てて旋撚し、その回転だけで気の至る深さまで、ほんのちょっとの深だが、勝手に鍼が入っていくのである。一回の治療でほぼ患者の主訴は消え、二回目の治療では、患者の気持ちが明るくなるという。「超旋刺」は心を治す鍼でもある訳だ。


延暦寺の麓の長寿院にお住まいの大阿闍梨、酒井雄哉さんのお好きな言葉は四字熟語の「無始無終」だそうである。千日回峰行を終えた翌日も、一週間の断食を終えた翌日も、一つの行を終えた翌日はいつものように歩いておられたというから、「無始無終」は酒井さんの生き方そのものなのだ。首藤傳明先生の座右の銘は、同じ四字熟語でも「忘己利他」という言葉で、「人のお役に立つことをする」という意味だ。この言葉は、延暦寺の開祖最澄の「山家学生式」の中にある。


首藤傳明先生は、104歳まで医師を続け、108歳でなくなった原志免太郎をめざしておられるようである。先生の健康法は以下のとおり。


・毎日自分の体に鍼を打ち灸をすえる(日に最低3回、体調維持と鍼感覚向上に良い)

・腹六分

・ひと口50回以上よく噛む

・腹式呼吸(お経、瞑想、坐禅、気功、太極拳)

・心配はしても心痛しない

・指を使う

・声を出す

・頭を使う、など


首藤傳明先生は、鍼灸医学の特徴を3つ挙げられている。


① 経脈がある

② 経脈の内外を営血と衛気が流れる

③ 五蔵に五神が宿る


そして、五神の「神」とは「こころ」のことで、心、肺、肝、脾、腎の五蔵のそれぞれに神、魄、魂、意、精の5種類のこころが宿るのである。したがって、鍼灸医学では、「こころは内臓にある」と考えている。この5種類のこころについて、先生は、


肺に宿る魄は「やる気」

肝に宿る魂は「決断力」

脾に宿る意は「まとめる力」

腎に宿る精は「根気」

心に宿る神は、以上4つのこころを統括する「生きる力」


であると、長年の臨床経験による実感から解釈されている。


扨、


「刺の要は気至りて効あり、効の信(まこと)は風の雲を吹くがごとし。」


これ、霊枢九神十二原論にある一節である。鍼は気至ってこそ効果があるのであって、そのとき患者は、覆っていた雲が風によってす~っと吹きはらわれたような感じになると、述べている。


「気至る」は術者の感覚で、「風の雲を吹くがごとし」は患者の感覚である。従って、鍼灸師は、「気至る」の感覚が分かってこそ免許皆伝となる訳だ。


首藤傳明先生は、頭の片隅に「気至る」を考えながら精進を重ねていると、ある日突然に分かるようになった、という。それには30年ぐらいかかったそうだから、気の遠くなるような話しである。が、鍼灸は行であるから、日々の精進が大事だということなのであろう。


「気至る」の感覚は、鍼灸師それぞれに違う。首藤傳明先生は、釣り針に魚がかかったときの感覚に似ている、として、次のように語られている。


「少しずつ入れながら細かく二十度ほど回旋していると自然に鍼は進入する。そのうち、少し鍼が重くなってくる。ここで刺入を止め、ひたすら回旋する。と、ぐ~っ、と重たくなる。」


私は、最近、毎朝、お腹の募穴の18か所にハリを打っている。そうすると、やはり、何箇所かで、ぐ~っ、と気が至る感じが味わえる。鍼灸の世界では、ハリを自分のお腹に5万回打って一人前といわれているから、私の場合、8年で「気至る」が分かるのかもしれない。


鍼灸院が流行るためにはどうすればいいのか。今、行列のできる鍼灸院の院長である首藤傳明先生は、自分の過去のつらい経験を教訓として、学問、技術、こころ、宣伝、笑顔の5点をあげられている。


① 東西の文献を勉強する(学問)

② 意識しながら治療する(技術)

③ 己を忘れて他を利する(こころ)

④ 患者に鍼灸のよさを知ってもらう(宣伝)

⑤ 院長は明るくなければならない(笑顔)


以上5点は洋漢堂が常々心掛けているところでもある。ただし、今のところ、行列ができるところまでには至っていないのだが・・・。

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