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ユング

  • yokando2
  • 2023年10月4日
  • 読了時間: 5分

東洋医学の生体観で最も重要ではなはだ分かりにくい概念に「気」というのがある。気には邪気と正気があり、正気は通常、原気、宗気、栄気、衛気に4つに分けられる。そして、原気こそが、ユングのいう「集合的無意識」に関連しているのではないか、また、彼のいう「共時性」こそ、施術者と患者の気の交流ではないか、と考えられるのである。


C.G.ユング(1875-1961年)は1875年スイスのボーデン湖畔で生まれ、1961年85歳で死去。精神分析の分野でフロイトとともに多大な業績を残した。そのユングの主著は、1921年に刊行された『心理学的類型』である。『心理学的類型』は単なる分類の書ではない! 


意識と無意識の格闘の書である!


日本では、1986年に人文書院から全訳がⅠ、Ⅱの二巻に分け、高橋、森川、佐藤の共訳で発行されている。翌年、みすず書房からも、林道義訳で『タイプ論』のタイトルで出た。部分訳としては、高橋訳の『人間のタイプ』(1970年、日本教文社、第10、11章)と吉村訳の『心理学的類型』(2012年、中公クラシックス、第4、10章)がある。


ユングの蘊蓄のすごさを体験するには全訳が読みごたえがあっていいのだが、なにせ分量が多い。そこで、一般読者がユングの類型に対する考えを手っ取り早く知りたければ、第10章「類型の一般的記述」だけを読めばすむので、部分訳も重宝するのである。さらに、もっとずぼらな読者には、全訳Ⅱの付録に掲載されているユングの講演記録を読めば概要がつかめるので助かる。ずぼらな私もそうした。以下は、ユングの講演をもとにまとめたものである。


ユングの心理学的類型は、自身の20年にわたる医療活動を基礎として、身体から魂(ゼーレ)の構成要素を定式化する試みであった。ところで、人間の魂をパターンから推定する手法については、以下のように、古来多くの試みがなされている。


・占星術

・手相術

・ガレヌスによる人間の気質分類

   多血質←血液が優位

   粘液質←粘液が優位

   胆汁質←黄胆汁が多い

   憂鬱質←黒胆汁が多い

・ガルの骨相術

・ラヴァ―ターの人相学

・筆跡観相学

・クレッチュマーの生理学的類型学

   細長型→分裂気質、控えめ

   肥満型→躁鬱気質、社交的

   筋骨型→粘着気質、几帳面

・ロールシャッハのインクの染みによる性格判断


そこに、精神科医ユングが登場した。ユングは、神経症には患者が周囲世界の影響を受け入れて処理したときの独特の態度に原因があることを突き止めた。二つの異なる態度があり、ユングはこれを外向性と内向性と名づける。外向性は、外界の客体を志向し、自分自身を人に見せようとする強い傾向であり、内向性は、内なる主体を志向し、外界の事象に対して心を閉ざし、絶えず客体から退却して歩み寄ることをしない傾向である。例えば、ヒステリーはリビドーの遠心的運動により外向性となり、早発痴呆は逆にリビドーの求心的運動により内向性となる。この二類型の存在を証明する例として、ユングは、先人によってなされた以下のような類型化を挙げている。


・強靭な哲学者(外向性)⇔繊細な哲学者(内向性):W・ジェイムズ

・ロマン主義者(外向性)⇔古典主義者(内向性):オストヴァルト

・感情移入衝動(外向性)⇔抽象化衝動(内向性):ヴァオリンガー

・情感型(外向性)⇔素朴型(内向性):シラー

・プラトン的(外向性)⇔アリストテレス的(内向性):ハイネ

・ディオニソス的(外向性)⇔アポロン的(内向性):ニーチェ

・行為動詞(外向性)⇔感覚動詞(内向性):フィンク

・広く浅い意識(外向性)⇔狭く深い意識(内向性):オト・グロース


ただし、外向性または内向性の一面性は、何かある無意識的な対立運動によって心(プシュケー)の補償を受けないと完全に平衡を失うことになる。たとえば、内向型人間は、その意識的な態度と並んで、その背後に本人に意識されない外向的な態度をもっており、これが意識的な一面を自動的に補償するのである。


ところで、ユングの医療経験からは、人間の意識的機能には感覚、思考、感情、直観の4つがあり、外向的態度や内向的態度はこれらの中で優勢な機能の特性としてしか確認できない、という。感覚は何かがあるということを確定し、思考はそれが何を意味するか、感情はそれにいかなる価値があるかを確定することであり、直観は由来と未来についての推量、予感である。この4つの機能のそれぞれが内向性か外向性の態度の類型と結びついているのであるから、心理学的には、実践的意義があるものとして、2×4=8で、8種のタイプに患者または人間は分けられることになる。


   外界に対する態度(2):内向性、外向性

   意識的機能(4):感覚、思考、感情、直観


しかし、意識的機能が内向的でも、無意識中に抑圧されている外向的な態度が意識的機能を補償するのであるから、たとえば、内向型の知的な人間に外向的な感情が発見されることがある。夕食前はカントだが食後にニーチェになることは往々にしてあるのだ、とユングは考える。一般的な意識的態度の性質が、無意識的態度の性質と真っ向から対立するのである。この意識と無意識の対立がこじれて来ると、神経症を発症する。したがって、神経症の治療には、この無意識的な衝動の理解が欠かせないわけである。ユングは、こう言っている。


“意識の態度は、これがただちに一つの宗教だというのでなければ、つねに、少なくとも一種の世界観である。この事実こそ、類型の問題をはなはだ意義深くしているものなのである。諸類型間の対立は、人間同士の外面的な葛藤であるのみならず、果てしない内面の葛藤の源であり、また、外面的な争いと嫌悪の原因であるのみならず、神経的な病と魂の苦悩との内面的契機でもある”

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