霊枢Ⅱ
- yokando2
- 2023年7月29日
- 読了時間: 40分
霊枢・寒熱病第二十一
皮寒熱する者は、席に附すべからず。毛髮焦れ、鼻槁腊す。汗を得ずんば、三陽の絡に取りて、以て手の太陰を補う。肌寒熱する者は、肌痛み、毛髮焦れて、脣槁腊す。汗を得ずんば、三陽を下に取りて、以て其の血ある者を去り、足の太陰を補い、以て其の汗を出す。
骨寒熱する者は、病安ずる所無く、汗注して休まず。齒未だ槁れずんば、其の少陰を陰股の絡に取る。齒已に槁れたるは、死して治せず。骨厥も亦た然り。
骨痺は、節擧て用いられずして痛む。汗注し煩心するは、三陰の經を取りて之を補す。
身傷るる所有りて、出ること多く、及び風寒に中り、若しくは墮墜する所有りて、四支懈惰して收まらざるは、名づけて體惰と日う。其の小腹臍下の三結交を取る。三結交は、陽明太陰なり。臍の下三寸、關元なり。
厥痺は、厥氣上りて腹に及ぶ。陰陽の絡を取り、病の主るを視るなり。陽を寫して陰經を補うなり。
頚側の動脉は、人迎なり。人迎は、足の陽明なり。嬰筋の前に在り。嬰筋の後は、手の陽明なり。名づけて扶突と日う。次の脉は、足の少陽の脉なり。名づけて天牖と日う。次の脉は、足太陽なり。名づけて天柱と日う。腋下の動脉は、臂の太陰なり。名づけて天府と日う。
陽迎頭痛は、胸滿ちて息することを得ず。之を人迎に取る。
暴瘖氣鞕は、扶突と舌本とを取り血を出す。
暴聾氣蒙は、耳目明ならず。天牖に取る。
暴攣癇眩は、足身に任せず。天柱に取る。
暴癉内逆は、肝肺相搏ち、血溢鼻口に溢る。天府に取る。
此れを大牖の五部と爲す。
臂の陽明は、頄に入り齒に徧き者有り。名づけて大迎と日う。下齒齲するは之を取る。臂惡寒せば之を補い、惡寒せざれば之を寫す。
足の太陽は、頄に入り齒に徧き者有り。名づけて角孫と日う。上齒齲するは之を取る。鼻と頄前に在る。方に病むの時は、其の脉盛んなり。盛んなれば則ち之を寫し、虚すれば則ち之を補う。一に之を鼻の外に出るに取ると日う。
足の陽明は、鼻を挾み面に入る者有り。名づけて懸顱と日う。口對に屬し、入りて目本に繋がる。過ある者を視れば之を取る。有餘は損し、不足は益す。反する者は益すること甚し。
足の太陽は、項を通り腦に入る者有り。正に目本に屬し、名づけて眼系と日う。頭目苦痛するに、之を項中の兩筋の間に在るを取る。腦に入り乃ち陰蹻陽蹻に別れ、陰陽相い交わる。陽は陰に入り、陰は陽に出で、目の鋭眥に交わる。陽氣盛んなれば則ち瞋目し、陰氣盛んなれば則ち瞑目す。
熱厥は、足の太陰少陽を取りて、皆な之を留む。
寒厥は、足の陽明少陰を足に取りて、皆な之を留む。
舌縱み涎下りて煩悗せば、足の少陰を取る。
振寒洒洒として頷を鼓て、汗出づることを得ず、腹脹り煩悗せば、手の太陰を取る。虚を刺す者は、其の去るを刺すなり。實を刺す者は、其の來るを刺すなり。
春は絡脉を取り、夏は分腠を取り、秋は氣口を取り、冬は經輸を取る。凡そ此れ四時、各々時を以て齊を爲す。絡脉は皮膚を治し、分腠は肌肉を治し、氣口は筋脉を治し、經輸は骨髓を治す。
五藏は身に五部有り。伏兔一つ、腓二つ、腓は腨なり。背三つ、五藏の腧四つ、項五つ。此の五部に癰疽有る者は死す。病手臂に始まる者は、先づ手の陽明太陰を取りて汗出づ。病頭首に始まる者は、先づ項の太陽を取りて汗出づ。病足の脛に始まる者は、先づ足の陽明に取りて汗出づ。臂の太陰汗出すべし。足の陽明汗出すべし。故に陰を取りて汗出づること甚しき者は、之を陽に止む。陽を取りて汗出づること甚しき者は、之を陰に止む。
凡そ刺の害は、中りて去らずば、則ち精泄る。中らずして去るは、則ち氣を致す。精泄るれば則ち病甚しくして恇る。氣を致すは則ち生じて癰疽を爲すなり。
霊枢・癲狂第二十二
目眥は外、面に決する者を、鋭眥と爲し、内に在りて鼻に近き者を、内眥と爲す。上を外眥と爲し、下を内眥と爲す。
癲疾の始めて生ずるは、先づ樂しまず。頭重く痛み、視擧ぐれば目赤く、甚だ作くること極まり、已りて煩心す。之を顔に候う。手の太陽、陽明、太陰を取り、血變ずれば止む。
癲疾の始めて作るや、口に引きて、啼呼喘悸する者は、之を手の陽明、太陽に候う。左強き者は其の右を攻め、右強き者は其の左を攻め、血變ずれば止む。癲疾の始めて作るや、先づ反僵し、因りて脊痛む。之を足の太陽、陽明、太陰、手の太陽に候い、血變ずれば止む。
癲疾を治する者は、常に之とともに居し、其の當に取る所の處を察し、病至りて之を視、過有る者は之を寫し、其の血を瓠壺の中に置く。其の發する時に至りて、血獨り動く。動かずんば、窮骨に灸すること二十壯。窮骨は、骶骨なり。骨癲疾は、顑齒、諸腧の分肉皆な滿ちて、骨のみ居り、汗出でて煩悗す。嘔して多く沫を沃ぎ、氣下り泄するは、治せず。
筋癲疾は、身倦攣し急大なるは、項の大經の大杼の脉を刺す。嘔して多く沫を沃ぎ、氣下り泄するは、治せず。脉癲疾は、暴かに仆れ、四肢の脉、皆な脹して縱む。脉滿つれば、盡く之を刺して血を出す。滿たざれば、之を項を挟む太陽に灸す。帶脉の腰を相去ること三寸、諸の分肉の本輸に灸す。嘔して多く沫を沃ぎ、氣下り泄するは、治せず。癲疾は、疾かに發すること狂の如き者は、死して治せず。
狂始めて生ずるは、先づ自ら悲しむなり。喜く忘れ苦だ怒り善く恐るる者は、之を憂飢に得る。之を治するに手の太陰、陽明を取り、血變ずれば止む。及び足の太陰、陽明を取る。狂始めて發するや、臥すこと少なくして飢えず、自ら高賢なるなり。自ら辯智なるなり。自ら尊貴なるなり。善く罵詈し、日夜休まず。之を治するに手の陽明、太陽、太陰、舌下の少陰を取る。之を視るに盛なる者は皆な之を取る。盛ならずは之を釋つなり。
狂言し驚き善く笑い、好みて歌樂し、妄りに行きて休まざる者は、之を大いに恐るに得たり。之を治するに手の陽明、太陽、太陰を取る。狂、目妄りに見、耳妄りに聞き、善く呼ぶ者は、少氣の生ずる所なり。之を治するに手の太陽、太陰、陽明、足の太陰、頭の兩顑を取る。狂する者は多く食し、善く鬼神を見、善く笑いて外に發せざる者は、之を大いに喜ぶ所有るに得たり。之を治するに足の太陰、太陽、陽明を取り、後に手の太陰、太陽、陽明を取る。狂して新に發し、未だ此の如くに應ぜざる者は、先づ曲泉、左右の動脉を取り、及び盛なる者は血を見す。頃く有りて已む。已まざれば、法を以て之を取り、骨骶に灸すること二十壯。
風逆は、暴かに四肢腫れ、身漯漯とし、唏然として時に寒す。飢えるときは則ち煩し、飽くときは則ち善く變ず。手の太陰の表裏、足の少陰、陽明の經を取る。肉凊ゆる滎を取り、骨凊ゆるは井經を取るなり。厥逆の病爲るや、足暴かに凊ゆ。胸將に裂けるが若く、腸將に刀を以て之を切るが若く、煩して食うこと能わず。脉の大小皆な濇る。煖なるは足の少陰を取り、凊ゆるは足の陽明を取る。凊ゆるときは則ち之を補い、温なるときは則ち之を寫す。厥逆、腹脹滿し、腸鳴り、胸滿ち息することを得ずは、之を下胸の二脇に取る。欬して手を動ずる者は、背腧に與し手を以て之を按ずれば立に快き者、是なり。内閉して溲を得ざるは、足の少陰、太陽と骶上とを、長鍼を以て刺す。氣逆するは、則ち其の太陰、陽明、厥陰を取る。甚だしきは少陰、陽明動ずる者の經を取るなり。氣少なく、身漯漯たり。言は吸吸たり。骨痠れ體重く、懈惰して動くこと能わず。足の少陰を補う。氣短く、息短く屬かず、動けば氣索を作すは、足の少陰を補い、血絡を去るなり。
霊枢・熱病第二十三
偏枯は、身偏く用いられずして痛み、言變らず、志亂れず、病分腠の間に在り。巨鍼して之を取る。其の不足を益し、其の有餘を損すれば、乃ち復すべきなり。
痱の病爲るや、身に痛無き者、四肢收らず、智亂ること甚しからず、其の言微に知るは、治すべし。甚しきときは則ち言うこと能わず、治すべからざるなり。病先づ陽に起り、後に陰に入る者は、先づ其の陽を取りて、後に其の陰を取る。浮べて之を取る。
熱病三日にして、氣口靜かに、人迎躁しき者は、之を諸陽に取り、五十九刺し、以て其の熱を寫して其の汗を出し、其の陰を實し其の不足する者を補う。身熱甚しく、陰陽皆な靜かなる者は、刺すこと勿かれ。其の刺すべき者は、急に之を取り、汗出ざれば則し泄す。所謂刺すこと勿れとは、死の徴有ればなり。
熱病七日八日にして、脉口動き、喘して短なる者は、急に之を刺す。汗且に自ら出でんとす。淺く手の大指の間を刺す。熱病七日八日にして、脉微小にして、病者溲血し、口中乾くは、一日半にして死す。脉代なる者は、一日にして死す。熱病已に汗出ことを得て、脉尚お躁しく、喘し且つ復た熱するは、膚を刺すこと勿れ。喘すること甚しき者は死す。熱病七日八日にして、脉躁しからず、躁しくも散ぜず數なるは、後三日の中に汗有り。三日にして汗せざるは、四日に死す。未だ曾て汗せざる者は、腠に之を刺すこと勿れ。
熱病先づ膚痛み、鼻窒まり面充するは、之を皮に取る。第一鍼を以て、五十九す。苛く鼻に軫すれば、皮を肺に索む。得ずんば、之を火に索む。火は心なり。
熱病先づ身濇倚して熱し、煩悗し、脣口嗌を乾すは、之を皮に取る。第一鍼を以て、五十九す。膚脹り、口乾き、寒汗出づるは、脉を心に索む。得ずんば、之を水に索む。水は腎なり。
熱病嗌乾き多く飮み、善く驚き、臥して起つこと能わずは、之を膚肉に取る。第六鍼を以て、五十九す。目眥青きは、肉を脾に索む。得ずんば、木に索む。木は肝なり。
熱病面青く、腦痛み、手足躁しくは、之を筋間に取る。四逆に第四鍼を以てす。筋躄し目浸するは、筋を肝に索む。得ずんば、之を金に索む。金は肺なり。
熱病數々驚き、瘈瘲して狂う。之を脉に取る。第四鍼を以て、急に有餘なる者を寫す。癲疾毛髮去るは、血を心に索む。得ずんば、之を水に索む。水は腎なり。
熱病身重く骨痛み、耳聾して好んで瞑る。之を骨に取る。第四鍼を以て、五十九し、骨を刺す。病食わず、齒を齧み、耳青きは、骨を腎に索む。得ずんば、之を土に索む。土は脾なり。
熱病痛む所を知らず、耳聾し、自ら收むること能わず、口乾き、陽熱甚しく、陰頗る寒有る者は、熱髓に在り。死して治すべからず。
熱病頭痛み、顳顬目讎り脉痛み、善く衄するは、厥熱の病なり。之を取るに第三鍼を以てす。有餘不足を視る。寒熱は痔となる。
熱病體重く、腸中熱するは、之を第四鍼を以て其の腧、及び下の諸指の間に取る。氣を胃胳に索めて氣を得るなり。
熱病臍を挟みて急に痛み、胸脇滿るは、之を湧泉と陰陵泉とに取る。第四鍼を以て、嗌の裏に鍼す。
熱病にして汗且に出でんとし、及び脉順にして汗すべき者は、之を魚際、大淵、大都、大白に取る。之を寫すれば則ち熱去り、之を補えば則ち汗出づ。汗出こと大いに甚しきは、内踝の上の横脉を取り以て之を止む。
熱病已に汗を得て、脉尚お躁しく盛んなるは、此れ陰脉の極なり。死す。其の汗を得て脉靜なる者は生く。
熱病の者、脉尚お盛躁にして、汗を得ざる者は、此れ陽脉の極なり。死す。脉盛躁にして、汗を得て靜なる者は生く。
熱病にして刺すべからざる者九つ有り。
一に曰く、汗出でず、大顴發赤し噦する者は死す。
二に曰く、泄して腹滿ること甚しき者は死す。
三に曰く、目明かならず、熱已まざる者は死す。
四に曰く、老人嬰兒、熱して腹滿る者は死す。
五に曰く、汗出ず、嘔して下血する者は死す。
六に曰く、舌本爛れ、熱已まざる者は死す。
七に曰く、欬して衄し、汗出ず、出ずるも足に至らざる者は死す。
八に曰く、髓熱する者は死す。
九に曰く、熱して痙する者は死す。腰折れ、瘈瘲し、齒噤齘するなり。
凡そ此の九つの者は、刺すべからざるなり。
所謂五十九刺は、兩手外内の側ら各々三、凡て十二痏。五指の間各々一、凡て八痏。足も亦た是の如し。頭髮に入りて一寸の傍ら、三分各々三、凡て六痏。更に髮に入りて三寸の邊に五、凡て十痏。耳の前後口の下の者各々の邊ら一、項中に一、凡て六痏。巓上に一、顖會に一、髮際に一、廉泉に一、風池に二、天柱に二。
氣胸中に滿ちて喘息するは、足の太陰、大指の端、爪甲を去ること薤葉の如きを取る。寒するときは則ち之を留め、熱するときは則ち之を疾かにす。氣下りて乃ち止む。
心疝暴かに痛むは、足の太陰、厥陰を取り、盡く刺して其の血絡を取る。
喉痺れ、舌卷き口中乾き、煩心し心痛み、臂の内廉痛み、頭に及ぶべからざるは、手の小指の次指の爪甲の下、端を去ること韭葉の如きを取る。
目の中赤く痛むこと、内眥より始まるは、之を陰蹻に取る。
風痙、身反折するは、先づ足の太陽、及び膕中に取り、及び血絡より血を出す。中に寒有るは、三里を取る。
癃は、之を陰蹻、及び三毛の上に取り、及び血絡より血を出す。
男子は蠱の如く、女子は怚るが如く、身體腰脊解けるが如く、飮食を欲せざるは、先づ湧泉を取り血を見わす。跗上の盛んなる者を視て、盡く血を見わすなり。
霊枢・厥病第二十四
厥頭痛、面若し腫れ起りて煩心せば、之を足の陽明、太陰に取る。
厥頭痛、頭脉痛み、心悲しみて善く泣くは、頭の動脉反て盛んなる者を視て、刺して盡く血を去り、後に足の厥陰を調う。
厥頭痛、貞貞として頭重くして痛むは、、頭上の五行、行くごとに五を寫す。先づ手の少陰を取り、後に足の少陰を取る。
厥頭痛、意善く忘れ、之を按じて得ざるは、頭面の左右の動脉を取り、後に足の太陰を取る。
厥頭痛、項先づ痛み、腰脊應を爲すは、先づ天柱を取り、後に足の太陽を取る。
厥頭痛、頭痛むこと甚しく、耳の前後の脉湧きて熱有るは、寫して其の血を出し、後に足の少陽を取る。
眞頭痛、頭痛むこと甚しく、腦盡く痛み、手足寒えて節に至るは、死して治せず。
頭痛、腧に取るべからざる者は、撃墮する所有りて、惡血内に在り、若しくは肉傷れ痛み未だ已まず、可なるときは則ち刺し、遠くに取るべからざるなり。
頭痛、刺すべからざる者は、大いに痺れ惡を爲す。日に作こる者は、少しく愈えしむべくも、已むべからず。
頭半寒え痛むは、先づ手の少陽、陽明を取り、後に足の少陽、陽明を取る。
厥心痛、背と相控えて、善く瘈し、後より其の心に觸るるが如く、傴僂する者は、腎の心痛なり。先づ京骨、崑崙を取り、鍼を發して已まざれば、然谷を取る。
厥心痛、腹脹り胸滿ち、心尤も痛むこと甚しきは、胃の心痛なり。之を大都、大白に取る。
厥心痛、痛み錐鍼を以て其の心を刺すが如く、心痛むこと甚しき者は、脾の心痛なり。之を然谷、大谿に取る。
厥心痛、色蒼蒼として死せる状の如く、終日大息するを得ざるは、肝の心痛なり。之を行間、大衝に取る。
厥心痛、臥して徒だ居るが如く、心痛間あり、動作すれば痛み益々甚しく、色變ぜざるは、肺の心痛なり。之を魚際、大淵に取る。
眞心痛、手足青えて節に至り、心痛甚しきは、旦に發し夕に死す。夕に發し旦に死す。
心痛、刺すべからざる者は、中に盛聚有るは、腧に取るべからず。腸中に蟲瘕及び蛟蛕有るは、皆な小鍼を以て取るべからず。
心腸痛、憹んで痛を作こし、腫聚、往來して上下に行き、痛みに休止有り。腹熱し、喜く渇き、涎出る者は、是れ蛟蛕なり。手を以て聚め按じて堅く之を持ち、移ることを得しむることなく、大鍼を以て之を刺し、久しく之を持して、蟲動かずるときは、乃ち鍼を出すなり。羞腹憹痛し、中上に形る者なり。
耳聾して聞くこと無きは、耳中を取る。
耳鳴は、耳の前の動脉を取る。
耳痛、刺すべからざる者は、耳中に膿有り、若しくは乾耵聹有りて、耳聞くこと無きなり。
耳聾は、手の小指の次指の爪甲の上、肉と交わる者を取る。先づ手を取り、後に足を取る。
耳鳴は、手の中指の爪甲の上を取る。左は右を取り、右は左を取る。先づ手を取り、後に足を取る。
足髀擧ぐべからざるは、側して之を取る。樞合の中に在り。員利鍼を以てす。大鍼にては刺すべからず。
病注下血するは、曲泉を取る。
風痺淫濼して病、已むべからざる者は、足冰を履むが如く、時に湯中に入るが如し。股脛淫濼して、煩心し、頭痛み、時に嘔し時に悗し、眩已んで汗出づ。久しきときは則ち目眩み、悲しみ以て喜く恐れ、短氣して樂しまず。三年を出でずして死するなり。
霊枢・病本第二十五
先づ病みて後に逆なる者は、其の本を治す。
先づ逆して後に病む者は、其の本を治す。
先づ寒して後に病を生ずる者は、其の本を治す。
先づ病みて後に寒を生ずる者は、其の本を治す。
先づ熱して後に病を生ずる者は、其の本を治す。
先づ泄して後に他の病を生ずる者は、其の本を治す。
必ず且に之を調え、乃ち其の他の病を治す。
先づ病みて後に中滿する者は、其の標を治す。
先づ病みて後に泄する者は、其の本を治す。
先づ中滿して後に煩心する者は、其の本を治す。
客氣有り、同氣有り。
大小便利せざるは、其の標を治す。
大小便利するは、其の本を治す。
病發して餘有るは、本にして之を標にす。先づ其の本を治し、後に其の標を治す。病發して足らずんば、標にして之を本にす。先づ其の標を治し、後に其の本を治す。謹みて詳しく間甚を察し、意を以て之を調う。間ある者は并て行い、甚しきは獨行を爲す。先づ小大便利せずして、後に他の病を生ずる者は、其の本を治すなり。
霊枢・雜病第二十六
厥、脊を挟みて痛む者、頂に至り、頭沈沈然たり、目硯硯然たり。腰脊強ばるは、足の太陽膕中の血絡を取る。
厥、胸滿ち面腫れ、脣漯漯然たり。暴かに言うこと難く、甚しきときは則ち言うこと能わざるは、足の陽明を取る。
厥、氣喉に走りて言うこと能わず。手足青え、大便利せざるは、足の少陰を取る。
厥して腹嚮嚮然たり。寒氣多く、腹中士士として、便溲難きは、足の太陰を取る。
嗌乾き、口中熱して膠の如きは、足の少陰を取る。
膝中痛むは、犢鼻を取る。員利鍼を以て、發して之を間す。鍼の大いさ氂の如く、膝を刺して疑ること無からしむ。
喉痺れて、言うこと能わざるは、足の陽明を取る。能く言うは、、手の陽明を取る。
瘧、渇せずして、日を間て作こるは、足の陽明を取る。渇して日に作こるは、手の陽明を取る。
齒痛みて、清飮を惡まざるは、足の陽明を取る。清飮を惡むは、手の陽明を取る。
聾して痛まざる者は、足の少陽を取る。聾して痛む者は、手の陽明を取る。
衄して止まず、衃血流るるは、足の太陽を取る。衃血は、手の太陽を取る。已まざれば、宛骨の下を刺す。已まざれば、膕中を刺して血を出す。
腰痛、痛の上寒するは、足の太陽、陽明を取る。痛の上熱するは、足の厥陰を取る。以て俛仰すべからざるは、足の少陽を取る。
中熱して喘するは、足の少陰膕中の血絡を取る。
喜怒して食を欲せず、言益々小なるは、足の太陰を刺す。怒りて多く言うは、足の少陽を刺す。
顑痛は、手の陽明と顑の盛脉を刺して血を出す。
項痛みて、俛仰すべからざるは、足の太陽を刺す。以て顧みるべからざるは、手の太陽を刺すなり。
小腹滿大し、上りて胃に走り心に至り、淅淅として身時に寒熱し、小便利せざるは、足の厥陰を取る。
腹滿ち、大便利せず、腹大にして、亦た上りて胸嗌に走り、喘息、喝喝然たるは、足の少陰を取る。
腹滿ち、食化せず、腹嚮嚮然として、大便すること能わざるは、足の太陰を取る。
心痛、腰脊に引きて、嘔せんと欲するは、足の少陰を取る。
心痛、腹脹り、嗇嗇然として、大便利せざるは、足の太陰を取る。
心痛、背に引きて息するを得ざるは、足の少陰を刺す。已まざれば、手の少陽を取る。
心痛、小腹に引きて滿ち、上下して常の處なく、便溲難きは、足の厥陰を刺す。
心痛、但つ短氣して以て息すること足らざるは、手の太陰を刺す。
心痛、當に九節に之を次し、按じ已て刺し、之を按ずれば立に已む。已まざれば、上下に之を求め、之を得れば立に已む。
顑痛は、足の陽明曲周の動脉を刺す。血を見れば立に已む。已まざれば、人迎を經に按ずれば、立に已む。
氣逆上せば、膺中の陷なる者と、下胸の動脉とを刺す。
腹痛は、臍の左右の動脉を刺す。已に刺して之を按ずれば、立に已む。已まざれば、氣街を刺す。已に刺して之を按ずれば、立に已む。
痿厥、四末束悗を爲すは、乃ち疾かに之を解く。日に二たびす。不仁なる者は、十日にして知る。休むこと無ければ、病已て止む。
噦せば、草を以て鼻を刺し嚔せしむ。嚔すれば已む。息すること無くして疾かに迎えて之を引けば、立に已む。大いに之を驚かすも、亦た已むべし。
霊枢・周痺第二十七
黄帝岐伯の問うて曰く、「周痺の身に在るや、上下移徙し、脉に隨う。其の上下左右相應し、間てて空を容れず。願わくは聞かん此の痛み血脉の中に在るか、將た分肉の間に在るや。何を以てか是を致す。其の痛みの移るや、間てて鍼を下すに及ばず。其の慉痛の時、治を定だむるに及ばずして、痛み已に止む。何の道か然ら使むる。願わくは其の故を聞かん」と。
岐伯荅えて曰く、「此れ衆痺なり。周痺にあらざるなり」と。
黄帝曰く、「願わくは衆痺を聞かん」と。
岐伯對えて曰く、「此れ各々其の處に在り。更に發し更に止む。更に居し更に起る。右を以て左に應ず。左を以て右に應ず。周すること能わざるなり。更に發し更に休するなり」と。
黄帝曰く、「善し。之を刺すこと奈何」と。
岐伯對えて曰く、「此れを刺す者は、痛み已に止むと雖も、必ず其の處を刺す。復た起らしむること勿れ」と。
帝曰く、「善し。願わくは周痺の何如を聞かん」と。
岐伯對えて曰く、「周痺は、血脉の中に有り。脉に隨いて以て上り、脉に隨いて以て下る。左右すること能わず各々其の所に當たる」と。
黄帝曰く、「之を刺すこと奈何」と。
岐伯對えて曰く、「痛み上より下る者は、先づ其の下を刺して以て之を過し、後に其の上を刺して以て之を脱す。痛し下より上る者は、先づ其の上を刺して以て之を過し、後に其の下を刺して以て之を脱す」と。
黄帝曰く、「善し。此の痛は安にか生れ、何に因りて名有るか」と。
岐伯對えて曰く、「風寒濕の氣、外の分肉の間に客たり。迫切して沫を爲す。沫寒を得るときは則ち聚る。聚るときは則ち分肉を排して分裂するなり。分裂するときは則ち痛む。痛むときは則ち神之を歸す。神之を歸すときは則ち熱す。熱するときは則ち痛み解す。痛み解するときは則ち厥す。厥するときは則ち他の痺發す。發するときは則ち是の如し」と。
帝曰く、「善し。余已に其の意を得たり。此れ内、藏に在らずして、外、未だ皮に發せず。獨り分肉の間に居して、眞氣周ること能わず。故に命じて周痺と日う。故に痺を刺す者は、必づ先ず其の下の六經を切循し、其の虚實、及び大絡の血の結て通ぜず、及び虚して脉陷空なる者を視て、之を調う。熨して之を通ず。其の瘛して堅なるは、轉引して之を行らす」と。
黄帝曰く、「善し。余已に其の意を得たり。亦た其の事を得たるなり。九つの者、經、之が理を巽う。十二經脉陰陽の病なり」と。
霊枢・口問第二十八
黄帝間居し、左右を辟けて于岐に問うて曰く、「余已に九鍼の經論を聞き、陰陽逆順、六經已に畢る。願わくは口問を得ん」と。
岐伯席を避けて再び拜して曰く、「善いかな問いたまうこと。此れ先師の口傳する所なり」と。
黄帝曰く、「願わくは口傳を聞かん」と。
岐伯荅えて曰く、「夫れ百病の始めて生ずるや、皆な風雨寒暑、陰陽喜怒、飮食居處に生ず。大いに驚き卒かに恐るるときは、則ち血氣分離し、陰陽破散し、經絡厥絶し、脉道通ぜず。陰陽相逆し、衞氣稽留し、經脉虚空して、血氣次らず、乃ち其の常を失う。論、經に在らざる者は、請う、其の方を道わん」と。
黄帝曰く、「人の欠する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯荅えて曰く、「衞氣は晝日は陽に行き、夜半は則ち陰に行く。陰は夜を主り、夜は臥す。陽は上を主り、陰は下を主る。故に陰氣は下に積り、陽氣は未だ盡きず。陽引きて上り、陰引きて下る。陰陽相引き、故に數々欠す。陽氣盡きて、陰氣盛なるときは、則ち目瞑し、陰氣盡きて、陽氣盛なるときは、則ち寤む。足の少陰を寫し、足の太陽を補う」と。
黄帝曰く、「人の噦する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「穀胃に入り、胃の氣上りて肺に注ぐ。今故き寒氣有りて、新しき穀氣と、倶に還りて胃に入る。新故相亂れ、眞邪相攻め、氣并せて相逆して、復た胃より出づ。故に噦を爲す。手の太陰を補い、足の少陰を寫す」と。
黄帝曰く、「人の唏する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「此れ陰氣盛にして陽氣虚す。陰氣疾して陽氣徐なり。陰氣盛にして陽氣絶す。故に唏を爲す。足の太陽を補い、足の少陰を寫す」と。
黄帝曰く、「人の振寒する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「寒氣皮膚に客し、陰氣盛にして、陽氣虚す。故に振寒寒慄を爲す。諸陽を補う」と。
黄帝曰く、「人の噫する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「寒氣胃に客し、厥逆下より上り散じて、復た胃より出づ。故に噫を爲す。足の太陰、陽明を補う。一に曰く、眉本を補うなり」と。
黄帝曰く、「人の嚔する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「陽氣和利して、心に滿ち、鼻に出づ。故に嚔を爲す。足の太陽の榮、眉本を補う。一に曰く眉上なり」と。
黄帝曰く、「人の嚲する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「胃實せざるときは、則ち諸脉虚す。諸脉虚するときは、則ち筋脉懈惰す。筋脉懈惰するときは、則ち陰を行るに力を用い、氣復ること能わず。故に嚲を爲す。其の在る所に因りて、分肉の間を補う」と。
黄帝曰く、「人の哀て泣涕出る者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「心は、五藏六府の主なり。目は、宗脉の聚る所なり。上液の道なり。口鼻は、氣の門戸なり。故に悲哀愁憂するときは則ち心動く。心動くときは則ち五藏六府皆な搖ぐ。搖ぐときは則ち宗脉感ず。宗脉感ずるときは則ち液道開く。液道開くが故に泣涕出づ。液は、精に潅て空竅を濡す所以の者なり。故に上液の道開くときは則ち泣く。泣止まざるときは則ち液竭く。液竭きるときは則ち精潅かず。精潅かざるときは則ち目、見る所なし。故に命じて奪精と日う。天柱を補い經頚を挾む」と。
黄帝曰く、「人の大息する者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「憂思するときは則ち心系急す。心系急するときは則ち氣道約す。約するときは則ち利せず。故に大息して以て之を伸出す。手の少陰、心主、足の少陽を補いて之を留むるなり」と。
黄帝曰く、「人の涎下る者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「飮食は、皆な胃に入る。胃中に熱有るときは、則ち蟲動く。蟲動くときは則ち胃緩む。胃緩むときは則ち廉泉開く。故に涎下る。足の少陰を補う」と。
黄帝曰く、「人の耳中鳴る者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「耳は、宗脉の聚る所なり。故に胃中空なるときは、則ち宗脉虚す。虚するときは則ち下に溜る。脉に竭きる所の者有り。故に耳鳴す。客主人、手の大指の爪甲の上、肉と交わる者を補うなり」と。
黄帝曰く、「人の自ら舌を齧む者は、何の氣か然らしむる」と。
岐伯曰く、「此れ厥逆上に走り、脉氣輩しく至るなり。少陰の氣至れば、則ち舌を齧み、少陽の氣至れば、則ち頬を齧み、陽明の氣至れば、則ち脣を齧む。病を主る者を視て、則ち之を補う」と。
凡そ此の十二邪は、皆な奇邪の空竅に走る者なり。故に邪の在る所、皆な不足を爲す。故に上氣不足すれば、腦之が爲に滿たず。耳之が爲に苦鳴し、頭之が爲に苦傾し、目之が爲に眩す。中氣不足すれば、溲便之が爲に變じ、腸之が爲に苦鳴す。下氣不足すれば、則ち乃ち痿厥を爲し心悗す。足の外踝の下を補いて之を留む」と。
黄帝曰く、「之を治すること奈何」と。
岐伯曰く、「腎は欠を爲すを主る。足の少陰を取る。肺は噦を爲すを主る。手の太陰、足の少陰を取る。唏は、陰と陽と絶す。故に足の太陽を補い、足の少陰を寫す。振寒は、諸陽を補う。噫は、足の太陰、陽明を補う。嚔は、足の太陽の眉本を補う。嚲は、其の在る所に因りて、分肉の間を補う。泣出は、天柱經頚を侠むを補う。頚を侠む者は、頭の中分なり。大息は、手の少陰、心主、足の少陽を補い之を留む。涎下は、足の少陰を補う。耳鳴は、客主人、手の大指の爪甲の上と肉との交わる者を補う。自ら舌を齧むは、病を主る者を視て則ち之を補う。目眩み頭傾くは、足の外踝の下を補い之を留む。痿厥心悗するは、足の大指の間上二寸を刺し之を留む。一に曰く、足の外踝の下に之を留む」と。
霊枢・師傳第二十九
黄帝曰く、「余聞く、先師は心に藏する所有るも、方に著わさずと。余願わくは聞きて之を藏し、則して之を行く。上は以て民を治め、下は以て身を治め、百姓をして病無く、上下和親し、徳澤下に流れ、子孫憂無く、後世に傳え、終る時の有ることなからしめんとす。聞くことを得べきか」と。
岐伯曰く、「遠いかな、問いたまうこと。夫れ民を治むると自ら治まると、彼を治むると此を治むると、小を治むると大を治むると、國を治むると家を治むると、未だ逆有りて之を治むること能わざるなり。夫れ惟だ順なるのみ。順は、獨り陰陽の脉のみに非ず、氣の逆順をも論ずるなり。百姓人民は、皆な其の志に順ならんと欲するなり」と。
黄帝曰く、「之に順うこと奈何」と。
岐伯曰く、「國に入りては俗を問い、家に入りては諱を問う。堂に上りては禮を問い、病人に臨みては便なる所を問う」と。
黄帝曰く、「病人に便なること奈何」と。
岐伯曰く、「夫れ中熱消癉なるときは則ち寒に便なり。寒中の屬なるときは則ち熱に便なり。胃中熱するときは則ち穀を消し、人をして心懸り善く飢えしめ、臍より以上皮熱く、腸中熱するときは、則ち黄を出すこと糜の如く、臍より以下皮寒く、胃中寒するときは、則ち腹脹す。腸中寒するときは、則ち腸鳴り飧泄す。胃中寒く、腸中熱するときは、則ち脹りて且つ泄す。胃中熱く、腸中寒なるときは、則ち疾かに飢え、小腹痛み脹る」と。
黄帝曰く、「胃は寒飮を欲し、腸は熱飮を欲す。兩つの者の相い逆う、之を便なること奈何。且に夫れ王公、大人、血食の君、驕恣にして欲に從い、人を輕りて能く之を禁ずること無し。之を禁ずるときは則ち其の志に逆らう。之に順うときは則ち其の病を加う。之を便なること奈何。之を治するに何れをか先にす」。
岐伯曰く、「人の情、死を惡みて生を樂しまざるは莫し。之に告ぐるに其の敗を以てし、之を語るに其の善を以てし、之を導くに其の便なる所を以てし、之を開くに其の苦しむ所を以てせば、無道の人有りと雖も、惡んぞ聽かざる者有らんや」と。
黄帝曰く、「之を治るは奈何」。
岐伯曰く、「春夏は先づ其の標を治して、後に其の本を治す。秋冬は先づ其の本を治して、後に其の標を治す」と。
黄帝曰く、「其の相い逆らう者を便すること奈何」と。
岐伯曰く、「此れを便する者は、飮食衣服も亦、寒温に適うことを欲す。寒に凄愴たること無く、暑に汗を出すこと無し。食飮は、熱に灼灼たること無く、寒に滄滄たること無し。寒温中適す。故に氣將に持して、乃ち邪僻を致さざるなり」と。
黄帝曰く、「本藏に身形、支節、醸肉を以て、五藏六府の小大を候う。今、夫れ王公、大人、朝に臨み位に即くの君にして問うは、誰れか之を捫循して後に荅う可けんや」と。
岐伯曰く、「身形、支節は、藏府の蓋なり、面部の閲に非ざるなり」と。
黄帝曰く、「五藏の氣、面に閲る者は、余已に之を知る。支節を以て知りて之を閲るは奈何」と。
岐伯曰く、「五藏六府は、肺之が蓋爲り。巨肩の陷咽、其の外を候い見る」と。
黄帝曰く、「善し」と。
岐伯曰く、「五藏六府は、心之が主爲り。缺盆之が道爲り。伊骨の有餘、以て臼骬を候う」と。
黄帝曰く、「善し」と。
岐伯曰く、「肝は、將爲るを主る。之をして外を候わしむ。堅固を知らんと欲せば、目の小大を視る」と。
黄帝曰く、「善し」と。
岐伯曰く、「脾は、衞爲るを主る。之をして糧を迎えしむ。脣舌の好惡を視て、以て吉凶を知る」と。
黄帝曰く、「善し」と。
岐伯曰く、「腎は、外爲るを主る。之をして遠く聽かしむ。耳の好惡を視て、以て其の性を知る」と。
黄帝曰く、「善し。願わくは六府の候を聞かん」と。
岐伯曰く、「六府は、胃之が海爲る。廣骸、大頚、張胸は、五穀乃ち容る。鼻隧くして以て長くして、以て大腸を候う。脣厚く人中長くして、以て小腸を候う。目下の果大なるは、其の膽乃ち横し。鼻孔外に在るは、膀胱漏泄す。鼻柱の中央起るは、三焦乃ち約し。此れ六府を候う所以の者なり。上下三つながら等しきは、藏安くして且つ良し」と。
霊枢・決氣第三十
黄帝曰く、「余聞く、精氣津液血脉有りと。余意うに以爲らく一氣のみと。今、乃ち辨ちて六名と爲す。余其の然る所以を知らず」と。
岐伯曰く、「兩神相い搏り、合して形を成す。常に身に先んじて生ずる、是を精と謂う」と。
「何れをか氣と謂う」。
岐伯曰く、「上焦開發して、五穀の味を宣べ、膚を熏べ身を充たし毛を澤し、霧露の漑するが如し、是を氣と謂う」と。
「何れをか津と謂う」。
岐伯曰く、「腠理發泄して、汗出ること溱溱たり、是を津と謂う」と。
「何れをか液と謂う」。
岐伯曰く、「穀入りて氣滿ち、淖澤として骨に注ぐ。骨屬屈伸して澤を洩し、腦髓を補益し、皮膚潤澤す、是を液と謂う」と。
「何れをか血と謂う」。
岐伯曰く、「中焦氣を受け汁を取り、變化して赤し、是を血と謂う」と。
「何れをか脉と謂う」。
岐伯曰く、「營氣を壅遏して、避くる所無からしむ、是を脉と謂う」と。
黄帝曰く、「六氣は、有餘不足、氣の多少、腦髓の虚實、血脉の清濁、何れを以てか之を知らん」と。
岐伯曰く、「精脱する者は、耳聾す。氣脱する者は、目明らかならず。津脱する者は、腠理開き、汗大いに泄る。液脱する者は、骨屬屈伸して利せず、色夭く、腦髓消え、脛痠し、耳數々鳴る。血脱する者は、色白く夭然として澤いなく、其の脉空虚なり。此れ其の候なり」と。
黄帝曰く、「六氣は、貴賎何如」と。
岐伯曰く、「六氣は、各々部主有るなり。其の貴賎善惡は、常に主爲るべく、然して五穀と胃とを大海と爲すなり」と。
霊枢・腸胃第三十一
黄帝伯高に問うて、「余願わくは六府穀を傳うる者、腸胃の小大、長短、穀を受くることの多少を聞かん、奈何」と。
伯高曰く、「請う盡く之を言さん。穀の從い出入する所、淺深遠近長短の度は、脣より齒に至るまで、長さ九分、口の廣さ二寸半、齒より以後會厭に至るまで、深さ三寸半、大いさ五合を容る。舌は重さ十兩、長さ七寸、廣さ二寸半。咽門は、重さ十兩、廣さ二寸半、胃に至るまでの長さ一尺六寸。胃は、紆曲屈し之を伸ばし、長さ二尺六寸、大いさ一尺五寸、徑五寸、大いさ三斗五升を容る。小腸は、後は脊に附き、左に環り廻周疊積す。其の廻腸に注ぐ者は、外は臍上に附き、廻運環すること十六曲、大いさ二寸半、徑八分分の少半、長さ三丈三尺。廻腸は、臍に當り左に環り、廻周葉積して下り、廻運環反すること十六曲、大いさ四寸、徑一寸寸の少半、長さ二丈一尺。廣腸は、脊に傅て以て廻腸を受く。左に環り脊の上下に葉む。辟いて、大いさ八寸、徑二寸寸の太半、長さ二尺八寸。腸胃入る所より出る所に至るまで、長さ六丈四寸四分、廻曲環反すること三十二曲なり」と。
霊枢・平人絶穀第三十二
黄帝曰く、「願わくは聞かん、人の食わざること七日にして死するは、何ぞや」と。
伯高曰く、「臣請う其の故を言さん。胃は、大いさ一尺五寸、徑五寸、長さ二尺六寸。横に屈して水穀を受くること三斗五升。其の中の穀、常に留ること二斗、水一斗五升にして滿つ。上焦は氣を泄して、其の精微、慓悍、滑疾を出す。下焦は下て諸腸を漑す。小腸は、大いさ二寸半、徑八分分の少半、長さ三丈二尺。穀を受くること二斗四升。水六升三合合の大半。廻腸は、大いさ四寸、徑一寸寸の少半、長さ二丈一尺。穀を受くること一斗、水七升半。廣腸は、大いさ八寸、徑二寸寸の大半、長さ二尺八寸。穀を受くること九升三合八分合の一。腸胃の長さ、凡そ五丈八尺四寸。水穀を受くること九斗二升一合合の大半。
此れ腸胃の水穀を受くる所の數なり。
平人は則ち然らず。胃滿つるときは則ち腸虚す。腸滿つるときは則ち胃虚す。更るがわる虚し更るがわる滿つ。故に氣上下するを得、五藏安定し、血脉和利し、精神乃ち居す。故に神は水穀の精氣なり。故に腸胃の中、常に穀二斗、水一斗五升を留む。故に平人日に再たび後す。後すること二升半、一日の中五升、七日には五七三斗五升にして、留むる水穀盡く。故に平人は食飮せざること七日にして死する者は、水穀精氣津液皆な盡くるが故なり」と。
霊枢・海論第三十三
黄帝岐伯に問うて曰く、「余、刺法を夫子に聞く。夫子の言う所、營衞血氣を離れず。夫れ十二經脉は、内は府藏に屬し、外は肢節を絡う。夫子乃ち之を四海に合せんか」と。
岐伯荅えて曰く、「人にも亦た四海十二經水有り。經水は、皆な海に注ぐ。海に東西南北有り。命じて四海と日う」と。
黄帝曰く、「人を以て之に應ずるに奈何」と。
岐伯曰く、「人に髓海有り、血海有り、氣海有り、水穀の海有り。凡そ此の四つ者は、以て四海に應ずるなり」と。
黄帝曰く、「遠いかな、夫子の人を天地四海に合すること。願わくは之に應ずることを聞かん奈何」と。
岐伯荅えて曰く、「必ず先づ明らかに陰陽、表裏、滎輸の在る所を知るときは、四海定まる」と。
黄帝曰く、「之を定むること奈何」と。
岐伯曰く、「胃は、水穀の海.其の輸は上は氣街に在り、下は三里に至る。衝脉は、十二經の海爲り。其の輸は上は大杼に在り、下は巨虚の上下の廉に出づ。膻中は、氣の海爲り。其の輸は上は柱骨の上下に在り、前は人迎に在り。腦は髓の海爲り。其の輸は上は其の蓋に在り、下は風府に在り」と。
黄帝曰く、「凡そ此の四海は、何れに利あり、何れに害あり、何れに生き、何に敗する」と。
岐伯曰く、「順を得る者は生き、逆を得る者は敗す。調うことを知る者は利あり、調うことを知らざる者は害あり」と。
黄帝曰く、「四海の逆順奈何」と。
岐伯曰く、「氣海餘有る者は、氣胸中に滿ち、悗息して面赤し。氣海足らざるときは、則ち氣少くして以て言うに足らず。血海餘有るときは、則ち常に其の身の大なることを想い、怫然として其の病む所を知らず。血海足らざるも、亦た常に其の身の小なることを想い、狹然として其の病む所を知らず。水穀の海餘有るときは、則ち腹滿つ。水穀の海足らざるときは、則ち飢ゆるも穀食を受けず。髓海餘有るときは、則ち輕勁多力にして、自ら其の度に過ぐ。髓海足らざるときは、則ち腦轉じ耳鳴り、脛痠れ眩冒し、目見る所なく、懈怠して安臥す」と。
黄帝曰く、「余已に逆順を聞く。之を調うこと奈何」と。
岐伯曰く、「審らかに其の輸を守りて、其の虚實を調え、其の害を犯すこと無かれ。順う者は復することを得、逆う者は必ず敗す」と。
黄帝曰く、「善し」と。
霊枢・五亂第三十四
黄帝曰く、「經脉十二は、別れて五行を爲し、分れて四時を爲す。何れを失いて亂れ、何れを得て治るか」と。
岐伯曰く、「五行に序有り、四時に分有り。相い順うときは則ち治り、相い逆うときは則ち亂る」と。
黄帝曰く、「何をか相い順うと謂う」と。
岐伯曰く、「經脉十二は、以て十二月に應じ、十二月は、分れて四時を爲す。四時は、春秋冬夏、其の氣各々異なり。營衞相い隨い、陰陽已に和し、清濁相い干さず。是の如くなるときは則ち之に順いて治る」と。
黄帝曰く、「何をか逆いて亂ると謂う」と。
岐伯曰く、「清氣は陰に在り、濁氣は陽に在り、營氣は脉に従う。衞氣逆行すれば、清濁相い干し、胸中に亂る。是を大悗と謂う。故に氣心に亂るときは、則ち煩心密嘿し、首を俛して靜かに伏す。肺に亂るときは、則ち俛仰喘喝し、手を接えて以て呼く。腸胃に亂るときは、則ち霍亂を爲す。臂脛に亂るときは、則ち四厥を爲す。頭に亂るときは、則ち厥逆、頭重、眩仆を爲す。
黄帝曰く、「五亂は、之を刺すに道有りや」と。
岐伯曰く、「道有りて以て來たり、道有りて以て去る。審らかに其の道を知る、是を身寳と謂う」と。
黄帝曰く、「善し。願わくは其の道を聞かん」と。
岐伯曰く、「氣心に在る者は、之を手の少陰、心主の輸に取る。氣肺に在る者は、之を手の太陰の滎、足の少陰の輸に取る。氣腸胃に在る者は、之を足の太陰、陽明に取る。下らざる者は、之を三里に取る。氣頭に在る者は、之を天柱、大杼に取る。知らざるは、足の太陽の滎輸に取る。氣臂足に在るは、之を取るに先づ血脉を去り、後に其の陽明、少陽の滎輸に取る」と。
黄帝曰く、「補寫は奈何」と。
岐伯曰く、「徐かに入れて徐かに出す。之を導氣と謂う。補寫に形無し。之を精に同すという。是有餘不足に非ざるなり。亂氣の相逆なり」と。
黄帝曰く、「允なるかな道、明らかなるかな論。請う之を玉版に著わし、命じて治亂と日わん」と。
霊枢・脹論第三十五
黄帝曰く、「脉の寸口に應ずる、如何にして脹する」と。
岐伯曰く、「其の脉大堅以て濇なる者は、脹なり」と。
黄帝曰く、「何を以て藏府の脹を知らん」と。
岐伯曰く、「陰は藏爲り。陽は府爲り」と。
黄帝曰く、「夫れ氣の人をして脹せしむるや、血脉の中に在るか、藏府の内か」と。
岐伯曰く、「三の者皆な存す。然かれども脹の舍に非ざるなり」と。
黄帝曰く、「願わくは脹の舍を聞かん」と。
岐伯曰く、「夫れ脹は、皆な藏府の外に在り。藏府を排して、胸脇を郭し、皮膚に脹す。故に命じて脹と日う」と。
黄帝曰く、「藏府の胸脇腹裏の内に在るや、匣匱の禁器を藏するが若きなり。各々次舍有り。名を異にして處を同じくす。一域の中、其の氣各々異なり。願わくは其の故を聞かん」と。
黄帝曰く、「未だ其の意を解せず。再び問う」と。
岐伯曰く、「夫れ胸腹は、藏府の郭なり。膻中は、心主の宮城なり。胃は、大倉なり。咽喉小腸は、傳送なり。胃の五竅は、閭里の門戸なり。廉泉、玉英は、津液の道なり。故に五藏六府は、各々畔界有り。其の病各々形状有り。營氣は脉を循る。衞氣逆すれば、脉脹を爲す。衞氣脉に並び分を循れば、膚脹を爲す。三里にして寫す。近き者は一たびして下だり、遠き者は三たびして下る。虚實を問うこと無く、工は疾かに寫すること在り」と。
黄帝曰く、「願わくは脹の形を聞かん」と。
岐伯曰く、「夫れ心の脹は、煩心短氣し、臥して安からず。肺の脹は、虚滿して喘欬す。肝の脹は、脇下滿ちて痛み小腹に引く。脾の脹は、善く噦し、四肢煩悗し、體重く衣に勝ること能わず、臥して安からず。腎の脹は、腹滿ち背に引き、央央然として腰髀痛む。六府の脹、胃の脹は、腹滿ち、胃脘痛み、鼻に焦れ臭きを聞き、食に妨げ、大便難し。大腸の脹は、腸鳴して痛み濯濯たり、冬日重ねて寒を感ずるときは、則ち飧泄して化せず。小腸の脹は、少腹昔脹し、腰に引きて痛む。膀胱の脹は、少腹滿ちて氣癃す。三焦の脹は、氣皮膚の中に滿ち、輕輕然として堅からず。膽の脹は、脇下痛み脹れ、口中苦く、善く大息す。凡そ此の諸脹は、其の道は一に在り。明らかに逆順を知れば、鍼數失せず。虚を寫し實を補せば、神其の室を去り、邪を致し正を失す。眞定まるべからず、粗の敗るる所、之を夭命と謂う。虚を補し實を寫せば、神其の室に歸り、久しく其の空を塞ぐ。之を良工と謂う」と。
黄帝曰く、「脹は焉くにか生じ、何に因りてか有る」と。
岐伯曰く、「衞氣の身に在るや、常に然かと脉に並び分肉を循り、行くに逆順有り。陰陽相い隨い、乃ち天和を得る。五藏更るがわる始まり、四時に序有りて、五穀乃ち化す。然る後、厥氣下に在り、營衞留止し、寒氣逆上すれば、眞邪相い攻め、兩氣相い搏ちて、乃ち合して脹を爲すなり」と。
黄帝曰く、「善し。何を以てか惑を解かん」と。
岐伯曰く、「之を眞に合せ、三つ合せて得る」と。
帝曰く、「善し」と。
黄帝岐伯に問うて曰く、「脹論に言わく、虚實を問うこと無く、工は疾かに寫すること在り。近き者は一たびして下だり、遠き者は三たびして下る。今其の三たびして下らざること有る者は、其の過焉くにか在る」と。
岐伯對えて曰く、「此れ肉肓に陷りて氣穴に中る者を言うなり。氣穴に中らざるときは、則ち氣内に閉す。鍼肓に陷らざれば、則ち氣行かず。上越して肉に中れば、則ち衞氣相い亂れて、陰陽相い逐う。其の脹に於けるや、當に寫すべきを寫せざれば、氣故に下らず。三たびして下らざれば、必ず其の道を更たむ。氣下りて乃ち止む。下らずんば復た始む。以て萬全なるべし。烏んぞ殆きこと有らんや。其の脹に於けるや、必ず其の胗を審らかにし、當に寫すべきを則ち寫す。當に補すべきを則ち補す。鼓の桴に應ずるが如し。惡んぞ下らざる者の有らんや」と。
霊枢・五癃津液別第三十六
黄帝岐伯に問うて曰く、「水穀口に入り、腸胃に輸す。其の液別れて五と爲る。天寒く衣薄きときは、則ち溺と氣とを爲す。天熱く衣厚きときは、則ち汗を爲す。悲哀して氣并するときは、則ち泣を爲す。中熱して胃緩むときは、則ち唾を爲す。邪氣内に逆するときは、則ち氣之が爲に閉塞して行かず。行かざるときは、則ち水脹を爲す。余其の然ることを知るなり。其の何に由りて生ずるかを知らず。願わくは其の道を聞かん」と。
岐伯曰く、「水穀皆な口に入り、其の味に五有りて、各々其の海に注ぐ。津液は各々其の道に走る。故に三焦は氣を出して、以て肌肉を温め、皮膚を充して、其の津を爲す。其の流れて行かざる者は、液を爲す。天暑く衣厚きときは、則ち腠理開く。故に汗出づ。寒分肉の間に留まり、沫を聚めるときは則ち痛を爲す。天寒きときは則ち腠理閉じ、氣濕りて行かず。水下り膀胱に留まるときは、則ち溺と氣とを爲す。五藏六府は、心之が主と爲り、耳之が聽と爲り、目之が候と爲り、肺之が相と爲り、肝之が將と爲り、脾之が衞と爲り、腎之が爲に外を主る。故に五藏六府の津液は、盡く上りて目に滲す。心悲しみ氣并すときは、則ち心系急す。心系急するときは則ち肺擧る。肺擧るときは則ち液上り溢れ、夫れ心系と肺と常に擧ること能わず。乍ち上り乍ち下る。故に欬して泣出づ。中熱するときは則ち胃中穀を消す。穀を消すときは則ち蟲上下し作りて、腸胃充ち郭くす。故に胃緩む。胃緩むときは則ち氣逆す。故に唾出づ。五穀の精液、和合して膏を爲す者は、内滲て骨空に入り、腦髓を補益して、下りて陰股に流る。陰陽和せずときは、則ち液をして溢れ下りて陰に流れ、髓液皆な減じて下らしむ。下ること過度なるときは則ち虚す。虚するが故に腰背痛みて脛痠る。陰陽の氣道通ぜず、四海閉塞し、三焦寫せず、津液化せず。水穀腸胃の中に并せ、廻腸に別れ、下焦に留まる。膀胱に滲するを得ざるときは、則ち下焦脹る。水溢るるときは則水脹を爲す。此れ津液五別の逆順なり」と。
霊枢・五閲五使第三十七
黄帝岐伯に問うて曰く、「余聞く刺に五官五閲有りて、以て五氣を觀ると。五氣は、五藏の使なり。五時の副なり。願わくは聞かん、其の五使は當に安くより出でんとするか」と。
岐伯曰く、「五官は、五藏の閲なり」と。
黄帝曰く、「願わくは其の出づる所を聞いて、常と爲すべからしめん」と。
岐伯曰く、「脉は氣口に出で、色は明堂に見わる。五色更るがわる出でて、以て五時に應ずるkと、各々其の常のごとし。經氣藏に入らば、必ず當に裏を治すべし」と。
帝曰く、「善し。五色は獨り明堂に決するや」と。
岐伯曰く、「五官已に辨ち、闕庭必ず張り、乃ち明堂に立つ。明堂は廣大、蕃蔽外に見われ、方壁高基、引き垂れて外に居る。五色乃ち治まり、平博廣大なれば、壽百歳に中ゆ。此を見わす者は、之を刺せば必ず已ゆ。是の如き人は、血氣餘有りて、肌肉堅く緻かし。故に苦しむには鍼を以てすべし」と。
黄帝曰く、「願わくは五官を聞かん」と。
岐伯曰く、「鼻は肺の官なり。目は肝の官なり。口脣は脾の官なり。舌は心の官なり。耳は腎の官なり」と。
黄帝曰く、「官を以て何をか候う」と。
岐伯曰く、「以て五藏を候う。故に肺の病は、喘息し鼻張る。肝の病は、眥青し。脾の病は、脣黄なり。心の病は、舌卷いて短く顴赤し。腎の病は、顴と顏と黒し」と。
黄帝曰く、「五脉安らかに出で、五色安らかに見われ、其の常の色にして殆き者は如何」と。
岐伯曰く、「五官辨たず、闕庭張らず、其の明堂を小にして、蕃蔽見われず、又其の墻は埤く、墻の下に基無く、角を垂れ外を去る。是の如き者は、平常と雖ども殆し。况んや疾を加えんをや」と。
黄帝曰く、「五色の明堂に見われて、以て五藏の氣を觀る。左右高下、各々形有りや」と。
岐伯曰く、「府藏の中に在るや、各々次舍を以てす。左右上下、各々其の度の如きなり」と。
霊枢・逆順肥痩第三十八
黄帝岐伯に問うて曰く、「余鍼道を夫子に聞くこと、衆多くして悉を畢る。夫子の道、應は失するが如くして據は未だ堅然たる者有らざるなり。夫子の問學熟せるか、將た審かに物を察して心之を生ずるや」と。
岐伯曰く、「聖人の道を爲す者は、上は天に合し、下は地に合し、中は人事に合す。必ず明法有りて、以て度數、法式、檢押を起して、乃ち後に傳うべし。故に匠人は尺寸を釋てて短長を意り、繩墨を廢して平水を起すこと能わざるなり。工人は規を置きて員を爲し、矩を去りて方を爲すこと能わず。此を用いることを知る者は、固より自然の物、用い易きの教にして、逆順の常なり」と。
黄帝曰く、「願わくは自然を聞かんに奈何」と。
岐伯曰く、「深きに臨みて水を決しては、功力を用いずして、水竭くべきなり。堀を循りて衝を決しては、經通ずべきなり。此れを氣の滑澀、血の清濁、行の逆順と言うなり」と。
黄帝曰く、「願わくは聞かん、人の白黒、肥痩、小長に、各々數有るや」と。
岐伯曰く、「年質壯大、血氣充盈、膚革堅固、因て加うるに邪を以てす。此れを刺す者は、深くして之を留む。此れ肥人なり。肩腋廣く、項肉薄く、厚皮にして黒色、脣臨臨然として、其の血黒くして以て濁り、其の氣濇りて以て遲し。其の人と爲りや、取與するに貪なり。此れを刺す者は、深くして之を留め、多く其の數を益するなり」と。
黄帝曰く、「痩人を刺すは奈何」と。
岐伯曰く、「痩人は、皮薄く色少く、肉廉廉然たり。薄脣輕言にして、其の氣滑にして血清く、氣を脱し易く、血を損じ易し。此れを刺す者は、淺くして之を疾かにす」と。
黄帝曰く、「常人を刺すは奈何」と。
岐伯曰く、「其の白黒を視て、各々之を調うることを爲す。其の端正敦厚なる者は、其の血氣和調す。此れを刺す者は、常の數を失すること無きなり」と。
黄帝曰く、「壯士眞骨なり者を刺すは奈何」と。
岐伯曰く、「壯士眞骨を刺す、堅肉緩節、監監然たり。此の人重きときは則ち氣濇り血濁る。此れを刺す者は、深くして之を留め、多く其の數を益す。勁きときは則ち氣滑かに血清す。此れを刺す者は、淺くして之を疾かにす」と。
黄帝曰く、「嬰兒を刺すは奈何」と。
岐伯曰く、「嬰兒は、其の肉脆く血少く氣弱し。此れを刺す者は、毫鍼を以て、淺く鍼して疾かに發す。日に再びして可なり」と。
黄帝曰く、「深く臨みて水を決すること奈何」と。
岐伯曰く、「血清く氣濁るは、疾かに之を寫すれば氣竭く」。
黄帝曰く、「堀を循りて衝を決すること奈何」と。
岐伯曰く、「血濁り氣濇るは、疾かに之を寫すれば經通づべきなり」と。
黄帝曰く、「脉行の逆順は奈何」と。
岐伯曰く、「手の三陰は、藏より手に走り、手の三陽は、手より頭に走る。足の三陽は頭より足に走り、足の三陰は、足より腹に走る」と。
黄帝曰く、「少陰の脉獨り下行するは、何ぞや」と。
岐伯曰く、「然らず。夫れ衝脉は、五藏六府の海なり。五藏六府は皆な焉を稟く。其の上る者は、頏顙に出で、諸陽に滲み、諸精を潅す。其の下る者は、少陰の大絡に注ぎ、氣街に出で、陰股の内廉を循り、膕中に入り、骭骨の内に伏行して、下りて内踝の後に至り屬して別る。其の下る者は、少陰の經に並び、三陰に滲む。其の前なる者は、伏行して跗に出で屬して下り、跗を循りて大指の間に入り、諸絡に滲みて肌肉を温む。故に別絡結すれば、則ち跗上動かず。動かざれば則ち厥す。厥すれば則ち寒す」と。
黄帝曰く、「何を以てか之を明かにす」と。
岐伯曰く、「言を以て之を導き、切して之を驗す。其の必ずしも動じて、然る後に乃ち逆順の行を明らかにすべきに非ざるなり」と。
黄帝曰く、「窘れるかな、聖人の道を爲ること。日月より明らかに、毫釐より微なり。其れ夫子に非ずんば、孰れか能く之を道わんや」と。
霊枢・血絡論第三十九
黄帝曰く、「願わくは其の奇邪にして經に在らざる者を聞かん」と。
岐伯曰く、「血絡是れなり」と。
黄帝曰く、「血絡を刺して仆るる者は、何ぞや。血出でて射る者は、何ぞや。血少く黒くして濁るる者は、何ぞや。血出でて清くして半ば汁を為す者は、何ぞや。鍼を發して腫るる者は、何ぞや。血出でて若しくは多く若しくは少くして、面色蒼蒼たる者は、何ぞや。鍼を發して面色變らずして、煩悗する者は、何ぞや。多く出血して動搖せざる者は、何ぞや。願わくは其の故を聞かん」と。
岐伯曰く、「脉氣盛にして血虚する者は、之を刺すときは則ち氣を脱す。氣を脱するときは則ち仆る。血氣倶に盛んにして、陰氣多き者は、其の血滑なり。之を刺すときは則ち射る。陽氣畜積し、久しく留まりて寫さざる者は、其の血黒く以て濁る。故に射ること能わず。新たに飮みて液絡に滲みて、未だ血に合和せざるなり。故に血出でて汁別るる。其の新たに飮まざる者は、身中に水有ること久しきときは則ち腫を爲す。陰氣陽に積み、其の氣絡に因る。故に之を刺し血未だ出ずして、氣先づ行く。故に腫るる。陰陽の氣、其の新たに相い得て未だ和合せず、因りて之を寫すれば、則ち陰陽倶に脱し、表裏相い離る。故に脱色して蒼蒼然たり。之を刺して血出ること多く、色變らずして煩悗する者は、絡を刺して經を虚す。虚經の陰に屬する者は、陰脱す。故に煩悶す。陰陽相い得て、合して痺を爲す者は、此れ内經に溢れ、外絡に注ぐと爲す。是の如き者は、陰陽倶に餘有り。多く血を出すと雖も、虚すこと能わざるなり」と。
黄帝曰く、「之を相ること奈何」と。
岐伯曰く、「血脉は盛んにして、堅く横たわりて以て赤く、上下常の處無く、小なる者は鍼の如く、大なる者は筯の如し。則して之を寫すれば、萬全なり。故に數を失うこと無し。數を失いて反すれば、各々其の度の如し」と。
黄帝曰く、「鍼の入りて肉著く者は、何ぞや」と。
岐伯曰く、「熱氣鍼に因るときは、則ち鍼熱す。熱するときは則ち肉鍼に著く。故に堅し」と。
霊枢・陰陽清濁第四十
黄帝曰く、「余聞く、十二經脉は、以て十二經水に應ずる者の、其の五色各々異なると。清濁の同じからず、人の血氣は一なるが若し。之に應ずること奈何」と。
岐伯曰く、「人の血氣、苟くも能く一なるが若きは、則ち天下は一爲らん。惡んぞ亂るる者有らんや」と。
黄帝曰く、「余一人を問う。天下の衆を問うに非ず」と。
岐伯曰く、「夫れ一人の者にも、亦た亂氣有り。天下の衆にも、亦た亂人有り。其れ合せて一と爲すのみ」と。
黄帝曰く、「願わくは人氣の清濁を聞かん」と。
岐伯曰く、「穀を受くる者は濁り、氣を受くる者は清む。清む者は陰に注ぎ、濁れる者は陽に注ぐ。濁りて清む者は、上りて咽に出づ。清みて濁れる者は、則ち下行す。清濁相い干かす。命けて亂氣と日う」と。
黄帝曰く、「夫れ陰は清みて陽は濁る。濁れる者の清めること有り、清む者の濁れること有り。清濁之を別つこと奈何」と。
岐伯曰く、「氣の大別、清める者は上りて肺に注ぎ、濁れる者は下りて胃に走る。胃の清氣は、上りて口に出づ。肺の濁氣は、下りて經に注ぎ、内りて海に積む」と。
黄帝曰く、「諸陽皆な濁る。何ぞ太陽の獨ること甚しきや」と。
岐伯曰く、「手の太陽は獨り陽の濁を受け、手の太陰は獨り陰の清を受く。其の清める者は、上りて空竅に走る。其の濁れる者は、下りて諸經に行く。諸陰皆な清む。足の太陰は獨り其の濁を受く」と。
黄帝曰く、「之を治すること奈何」と。
岐伯曰く、「清める者は其の氣滑かなり。濁れる者は其の氣濇る。此れ氣の常なり。故に陰を刺す者は、深くして之を留む。陽を刺す者は、淺くして之を疾かにす。清濁相い干す者は、數を以て之を調うるなり」と。
Comentarios