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難経

  • yokando2
  • 2019年9月29日
  • 読了時間: 4分

鍼灸術の代表的古典といえば、黄帝内経の『素問』、『霊枢』に『難経』を加えた三冊でしょう。


『難経』は後漢以降でかつ張仲景の『傷寒雑病論』成立以前に書かれた中国古典医学の書で、著者は不明です。多岐にわたる黄帝内経の内容を脈診と鍼術にしぼって、第一難から第八十一難までの81の項目に分けて整理してあり、黄帝内経にない独自の解釈も含まれています。鍼灸師、とくに日本の経絡治療家が最重要視している古典であります。


『難経』における脈診では、両手首の橈骨茎状突起の内側の部位を使い、手掌側から肘に向かって寸口、関上、尺中の三か所を指で押さえ、浮脈、中脈、沈脈の脈状を診、これによって病人の五臓六腑の状態や生き死に、予後を判定します。なにゆえに、手首の脈で五臓六腑の状態が把握できるかというと、第一難に、手首の橈骨茎状突起の内側は12経絡を運行する気血の出発点でありかつ終着点である手太陰肺経の脈動部であるから、と説明されています。


ところで、日本の経絡治療家は、寸口の左手で小腸と心、右手で大腸と肺、関上の左手で胆と肝、右手で胃と脾、尺中の左手で膀胱と腎、右手で三焦と心包を診ることができる、としています。両手の脈の違いに注目するわけですが、ここまで来ると、西洋医学にどっぷりつかっている現代人には理解不能となります。しかし、日本の経絡治療家はこの「六部定位脈診」と呼ばれる脈診法を診断の基礎に置いて、しかも、華々しい治療実績を挙げているのですから、驚くばかりです。


第四難や第十八難によれば、寸口の浮脈で肺と心、関上の中脈で脾、尺中の沈脈で肝と腎の状態を診ると書かれています。これだと、左右どちらの手首で脈診してもよろしいのですが、左右の脈の差に注目する「六部定位脈診」のことは、『難経』のどこにも書かれていません。いったい、日本の経絡治療家は、こんな突飛な脈診法をどこから考えついたのでしょうか。


そこで、いろいろと古典を調べてみますと、晋代の王叔和の『脈経』にきちんと書かれていました。そして、この『脈経』の記述の基となったのが、『素問』の「脈要精微論第十七」にあります。以下のとおりです。


“尺の内の両傍は季脇なり。尺の外で腎を候い、尺の裏で腹中を候う。附上の左の外で肝を候い、内で膈を候い、右の外で胃を候い、内で脾を候う。上附上の右の外で肺を候い、内で胸中を候い、左の外で心を候い、内で膻中を候う。”


さて、『難経』で最も有名な個所は第六十九難の次の下りでしょう。


“虚するものはその母を補い、実するものはその子を瀉す。当に先ずこれを補い、然る後にこれを瀉す。実せず虚せざれば、経を以てこれを取るとは、これ正経自ずから病を生じ他邪にあたらざればなり。まさに自ずからその経を取るべし。”


この治療原則に従い、日本の経絡治療家は、左手の関と尺の脈が弱ければ肝虚と診断し、左手の尺と右手の寸の脈が弱ければ腎虚と診断し、右手の寸と関の脈が弱ければ肺虚と診断し、右手の関と尺の脈が弱ければ脾虚と診断して、その虚している経絡の母に当たる経穴を補法で鍼するのであります。これを本治法とよび、経絡治療に欠かせないものとしています。


しかし、『難経』には、この六十九難の施術法以外にもいくつかの大切な術式が書かれていますので、以下に記しておきます。


第二十八難:

督脈、任脈、衝脈、帯脈、陽蹻脈、陰蹻脈、陽維脈、陰維脈の奇経八脈に邪気が蓄積されると、腫れて熱を持つから、石メスで瀉血してこれを取り除かねばならない。


第四十五難:

体内には八会があり、そこに病が生じて熱を持てば、府会は太倉(=中脘)、蔵会は季脇(=章門)、筋会は陽陵泉、髄会は絶骨、血会は膈兪、骨会は大杼、脈会は太淵、気会は膻中を取穴すればよい。


第六十六難:

五臓六腑に病があればその原穴を取穴すればよい。すなわち、肺は太淵、心は大陵、肝は太衝、脾は太白、腎は太谿、少陰(=心包)は脱骨(=神門)、胆は丘墟、胃は衝陽、三焦は陽池、膀胱は京骨、大腸は合谷、小腸は腕骨である。


第六十七難:

陰の病は陽の背部兪穴、陽の病は陰の腹部募穴を取穴すればよい。


第六十八難:

五臓六腑にはそれぞれに井栄兪経合の五輸穴があり、経気の出るところを井、流れるところを栄、注ぐところを兪、行くところを経、入るところを合としている。井穴は心下満、栄穴は身熱、兪穴は体重節痛、経穴は喘咳寒熱、合穴は逆気而泄を治療する。

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